ストイックのチャンピオン
井上尚弥はやはりモンスターだった。
リング上で勝利者インタビューを受け淡々と話す彼を見ていた私は思った。ボクシングはもちろん、ストイックであることに掛けても世界一だろうと。
その結果の結果なのだろう。
つまり、どこまでもストイックを極めたからこそボクシングの成果に繋がっているのは間違いない。
私だったら長きに渡るトレーニングも減量も出来たものではないし、恐怖でしかないリングに自分の足で歩いて行くことなんか出来っこない。
まして、父親の指導を素直に聞き続けることなんて想像もできない。
酒もタバコもギャンブルも、美食もエンタメも夜ふかしも、世の人々が日常的にやっている楽しみとは無縁な生活を続けることなんて私には出来ない。
大金を稼げるじゃないかと言うのは結果論でしかない。
稼げるボクサーは一握りだ。
一攫千金を狙って出来るものではない。
スポーツとして極めたいというだけで出来るものではない。
怠惰な私はつい金銭欲や物欲にまみれ、広告に誘導されて都会の生活を楽しんでいる気になっている。
もちろん仕事はするが、それとは別の自分の時間があると思いこんでいる。しかも、その自分の時間は私の人生にとっても社会にとっても大して重要ではない。世界チャンピオンであり続けるボクサーに比べたら、人生に対するスタンスが私は軽すぎる。
何でも手に入るこの時代。
お金さえあればと思いがちなこの時代に、どんなに金を積んでも得られないものを経験し体現しているのが井上尚弥だ。
ボクシングに人生を掛けて、それを究極の領域まで高める。
それは誰にも真似できないと同時に、生き方や人生への向き合い方を教えてくれる。
娯楽に満ちたこの世は惰性でも日々が過ぎていく。
自分だけの人生を追求することで自分の道を極めるという在り方はその対極で光り輝いている。
いちどきりの人生と良く言うが、誰も一度切りとは思っていない。今日という日が二度と無いことを多くの人は忘れている。
月並みだけれども、人生にとっての一日一日の意味を噛み締めながら生きていきたいと、井上尚弥を見て思った。その時は。
おわり
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