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テレビ放送の品質を支える人たち
こんな私でもテレビを見るよりYouTubeを見ることが圧倒的に多くなった。テレビの番組表を眺めても見ようと思う番組が見当たらないことの方が多い。
テレビがつまらないと言うよりも、ニッチ過ぎる私の興味を満たせるほどの選択肢がテレビ番組表の中には無いのだ。
例えばeスポーツの大会がテレビでやってるかな~、なんて探す前からやっているわけ無い事が分かっている。若い人が食い付きそうな番組作りをテレビは諦めてしまったのだろう(私は若く無いが)。
そんな私がよく見ているYouTubeチャンネルの一つを紹介しよう。
それは『テレビ朝日映像撮影部』だ。
テレビ朝日映像はテレビ朝日の子会社である制作部隊。そのテレビ朝日映像の社員であるプロのカメラマン二人が登場してテレビ撮影の蘊蓄や便利グッズを紹介するという極めてニッチな内容。
申し訳ないが私自身はビデオカメラ撮影が趣味ではない。子供が小さかった頃に成長記録としてホームビデオカメラを回し、PCで編集し、音楽を入れ、テロップを入れ、家族で共有出来るようYouTubeにアップした事くらいしかない言わばド素人だ。だから、これも大変申し訳ないことだがテレビを見ていても撮影技術が凄いなとか、今の映像はどうやって撮ったんだろうと思うなんてことはまるっきり無かった。
で、そのテレビ朝日映像撮影部。
プロのビデオカメラマンが何を目的に、どうしてYouTubeチャンネルを持つことになったのかは彼らの動画に譲るが、どう考えてもニッチ過ぎるテーマだろう。登場するカメラマンの一人は、プライベートでは全く動画を回さないと言うのだから、かつての私がそうだったような日曜ビデオカメラマン兼編集マンにとって参考にはなれども、おいそれと真似出来る領域でなはい。
彼らのチャンネルを見ていると、テレビ撮影を舐めたらアカンなぁと思う。紹介されているのは小技レベルかも知れないが、現場で求められる精度が違う。それを日常的にこなせるようになるまでには、何度も何度も怒鳴られ、殴られ、けなされ、アホかと言われ、そんなんだったら辞めろとまで言われるような、今だったら職場暴力とかハラスメントな仕打ちを受けながらも耐えに耐え忍んだに違いない。そうやって苦しい時を過ごした末に掴み取った技術なはずた。
決して机上の研修などでは身につかないし、参考になりそうなノウハウ動画を見たところで出来るようになんかならないはずだ。彼らのレベルに達するには、実際のテレビでの撮影経験が必須なはずだ。
だから、彼らのチャンネルは矛盾に満ちている。
動画撮影のノウハウが楽しく紹介されているが、私のような凡人素人がそれを見て、なるほどそうやればいいのかと思った所で、その技術が身に付くことは無いし、何処まで習得しても何処まで追い掛けても彼らの足元にも及ぶ訳が無い。ちょっと上手に撮れるようになったかなと思っても、見上げれば彼らが得意そうにドヤ顔で見下ろしてくるのだ。素人が叶う筈もないことを彼らは知り尽くしているのだ。
このチャンネルは彼らの優越感の為にあると言っても過言では無い(彼らは全くそうは思っていないと思うが)。
だからいいのだ。
善意の優越感が何とも小気味よい。
熟練しか到達できない技を惜しげもなく、さり気なく披露しつつ、余裕すら感じさせる。そう、見ている人に対しての余裕だ。真似したくてもできないだろ、という大人な余裕だ。
チャンネル内では英雄的存在の彼らも日々の仕事は小さな作業や、取り立てて目新しさの無いマンネリな作業の繰り返しだろう。
業界の中では出来て当たり前の技術水準でも、一般的には凄いと思われることは沢山ある。彼らがその道のプロフェッショナルだからだ。だから、そのことを世に向けてもっと誇って良い。YouTubeの中でもっともっとドヤって良い。誇れる技術を持っているのだから。
まぁいくらドヤられたところで私は自分で動画撮影を始めてみようなんて思わないから安心してほしい。
ところで、このチャンネルには時々有名人ゲストが出演する。そんな時、いつもはドヤ顔の彼も少し控えめになる。有名人と共演するドキドキ感で小さくなっているのでは無く、裏方の自分が演者と同じ画に納まっていることが無性に照れ臭いんだろうと私は勘ぐっている。そんなところにも裏方としてのプロ根性を感じずにはいられない。
いやぁ、いい。
じつにいい。
テレビ番組にはなり得ないこの様な動画が見られるだけでもYouTubeの優位性は揺るぎ無い。
いやそれでは駄目だ。
彼らが撮影した映像を、そのプロの作品をテレビで見なければ。
私達がもっとテレビを見なければ彼らが職を失い『テレビ朝日映像撮影部』チャンネルがなくなってしまうではないか。
もしそうなったら、私は別の面白そうなYouTubeチャンネルを探すだけだが、あのドヤ顔が見られなくなるのは少し淋しい(紳士風の彼も😅)。
おわり