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銀行とお金と交換価値

 ブロックチェーンの技術を利用して、銀行を介さずに、より安価に送金やお金の貸し借りをする仕組みがあるという。
 これが普及すれば銀行はこれまでの業務を縮減出来る。銀行は必要だが銀行の店舗はいらなくなるらしい。

 これまで、街のお金の流通は銀行を中心に行われてきた。人はお金が必要になればATMにお金を下ろしに行った。なぜなら、支払いのときに現金を要求されたからだ。
 なぜ現金が必要で、なぜ現金でなければならないのかとは考えたりはしなかった。それが当たり前だったからだ。
 でも、住宅や自家用車などの高額商品を購入する時はどうだったろうか。現金で支払っただろうか。
 現金のやり取りが重要なのであれば高額になるほど現金に頼るべきであるが実際にはそうはなっていない。財布に札束を唸らせている人以外は、高額になればなるほど現金ではない何かで支払っている。このことは、現金でのやり取りがさして重要ではないということを示している。あなたの大切な給与だってきっと現金支給ではないだろう。

 それでは、現金を利用する理由は何だろうか。百円の買物の為にそれ以上の振込手数料を支払っていたらバカみたいじゃないか、と言うのが現金を利用していた理由だろうか。手数料で銀行が儲かるだけじゃないか、ということだろうか。振込やサインなどの手続きが面倒くさかったからだろうか。
 だったら、面倒くさい手続きが無くて手数料が安ければ使うのだろうか。ご存知の通り答は、使うだ。
 キャッシュレス決済やサインレスのクレカ決済がそれだ。
 こういったいわゆるキャッシュレス決済では手数料を払ってませんよ、という人は何も分かっていない。払っていないのではなく、払っていることが見えない仕組みになったと言うのが正しい。何とかペイはキャッシュバックがあってお得、かも知れないがお得した分はいつかどこかで誰かが負担する。それが見えないだけだ。

 つまり手数料は払っても便利な決済サービスが普及すれば現金なんか使わない。それほど迄に現金はその有難味から遠ざかってしまったと言えよう。

 だが、一つ心配なことがある。
 身近でこんな話を聞いたからだ。

 それは小学生になったお子さんのいるご家庭の話。その家庭では、小学生になったのだからお小遣いをあげようとなった。しかし今どきだから小遣いをお金では無くて、予めいくらかチャージした交通系ICカードを渡しておこうとなった。小遣いの意味もあるが、共働きだし何かの時はこれで何か買って食べてねとも話していたという。

 ある日母親がICカードの残額を見てみると予想以上に減っていたので子供に何に使ったか聞いてみた。すると一瞬不思議そうな顔をした後、笑顔でこう言ったというのだ。
 学校の帰り道にある飲み物の自販機で、一緒にいた友達にもジュースをあげたんだ。このカード、タッチすればいくらでもジュースが出てきて便利だね、と。

 教えていなかったからと言えばそれまでだが、その子には、物を買う時にお金を払うという概念が無かったのだ。
 大人はお金を知っていて、キャッシュレス決済はバーチャルなお金と思って使っているが、最初に触れる『お金』がキャッシュレスだと、交換価値が付与されたお金との引き換えで物が手に入り、かつ、お金は有限だという概念をすっ飛ばして、このカードで無限に物が手に入る、となってしまうということだろうか。これでは最初からクレジットカード中毒と同じだ。
 その子の親も買い物ではクレジットカードをよく使うというから、財布から貨幣を出して買い物をしている姿を子供に見せる機会があまり無かったのだろう。

 キャッシュレス化が進み、現金を知らずに育った世代が増えると、お金の価値観が変わるかもしれない。それと同時に、お金の交換価値を覚える為には現金が必要だよなと思ったエピソードだった。

おわり

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