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『二人の記憶』第95回 新車

 あおいかいの二人が有り難いのは、車に乗ると直ぐに眠ってしまうのと、チャイルドシートを全く嫌がらないことだ。
 聞けばチャイルドシートに座らせるとそれだけで泣き止まなくなる子も多いらしいから、だいぶ助かっている。

 これまで夫婦二人の頃からの車の後部座席に無理やりふたつのチャイルドシートを取り付けていた。亜希子は、これじゃ面倒見れないよと言いながらも、新しい車を手に入れるとなると二人してなかなか踏ん切りがつかなかった。
 それでも、3ヶ月前にディーラーを巡り新車を注文したのだった。
 今度の車はワンボックスタイプのファミリーカーだ。

 今日はその納車の日。
 朝からそわそわしっぱなしの昇太郎は、予定時間の十時が近づくと、窓から外を眺めては食卓に戻ってコーヒーを飲み、コーヒーがなくなるとテレビをつけてソファに座る。座ったかと思ったらまた窓から道路の方を見る。

「しょーたろー、座って待ってなって」
 亜希子が苦笑いしながら言うと、食卓でおやつを食べていた碧まで、
「ねー」
 と相づちを打っている。
 納車されたら早速みんなでドライブに行こうと予定していて、昨日のうちから準備を整えていた。おにぎりとお茶とお菓子の準備は終わっている。玄関にはレジャーシートと、このために買った折りたたみチェアが置いてある。前の車から取り外したふたつのチャイルドシートも。
「あ、来た!」
 窓の外を見ていた昇太郎が叫ぶ。叫ぶやいなや玄関に走っていた。

 ディーラー担当者から一通り説明を受けキーを受け取ると、昇太郎はそのキーを皆に向かって掲げた。
 何か分からないことがあったらいつでもご連絡下さい、と言う担当者は同僚の乗ってきた別の車に同乗して帰って行った。
 亜希子と昇太郎は早速、新車独特の車内でチャイルドシートの取り付けに取り掛かった。これが結構難儀で、終わった頃にはお昼になっていた。
「おにぎり準備してたけど、お腹すいたから食べてから出かけようか」
 亜希子のその提案に、公園での昼食をイメージしていた昇太郎は少し残念だったが、空腹には勝てなかった。
「よーし、食べたら出発するぞ。アオくん、カイくん、手を洗って!」

 車に乗った子供二人は新車にはさほど興味が無いようで、チャイルドシートに陣取ると1つ目の信号までには眠っていた。
 これからはこれでいっぱい出掛けるぞ、という気持ちで亜希子の方に目をやると助手席の亜希子も首をこっくりしていた。
 ドライブ日和の空はどこまでも青かった。

つづく

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