喫茶店のレジから始まる良い日の予感
仕事で訪問先へ直接向かうため、いつもとは違う地へ赴いた朝。雨が降りしきっていて憂鬱な日だった。
同行する人との駅での待ち合わせまで時間があったので、駅近くのコーヒー店に立ち寄った。
おはようございます。
受付レジの男性店員が私に投げかける。
どんな店でも来店客に言うであろうその言葉が、少し違って聞こえた。格別な笑顔でもなく、かと言って冷たくもない。ごく自然な対応だった。
ホットコーヒーを注文し、会計を済ませコーヒーを受け取る時、レジの男性店員の目を見ながら思わず私は、ありがとう、と口にしていた。
何だか良い日になりそうな気分になった。
その男性が何か特別な事をしていた訳では無い。
喋るセリフはマニュアル通りだっただろう。
やっている動作や表情も普通だ。
それでも、その人から受けた印象は暖かく人間味があって、すごく自然体で、それでいて何か良いことが起こりそうだと予感させる様な爽やかさに溢れていた。
注文から受取までの一分にも満たない時間の中でそれほど人の心を動かすようになるのには、どんな生き方をすれば良いのだろうか。
ふと、その男性の日常を垣間見たくなった。
人となり、という言葉がある。
人間性や人柄とも言われる。
これらの言葉には、人には持って生まれたものがあるというニュアンスが含まれているような気がする。後天的には獲得できない何かが人にはあるということだろうか。
そんな事を言ったら夢が無い。
生まれつき人に好かれる人とそうでない人がいるみたいで。
だから私は、人となりは持って生まれたものというよりも、その人の今の生き方が反映されるのだと信じたい。その瞬間への向き合い方の現れだと思いたい。
何か心配事があって心ここにあらずだと、当然相手は気がつく。
気に入られようと一生懸命になりすぎても距離をおきたいと思われることもある。
つくり笑顔は誰にでも見透かされる。
投げやりな言葉は相手に届かない。
今目の前にいる人に向けて自分の出来る最大限を出す。
つくらず、気負わず、焦らず、ありのままの自分が出来ることを差し出す。
自信があろうがあるまいが、出来ることに集中する。出来ないことをやろうとするのは無理があるし、出来るわけもない。だから相手も本当はそこまでを求めてはいない。
気合を入れろ! という言葉は自分自身に向かって言う言葉だと思う。
他人に言われて実行しようとした時点で自分を見失うことになる。
気合という言葉は相手への心の向け方や相手との呼吸の合せ方を意味するものだ。どこかに入れるものではない。
むしろこう言った方が私には心地よい。
心をこめて。
おわり