早く帰る
もう、二十年くらい経つだろうか、個人業績を落とさずに、むしろ上げながら早く退勤するようにしてみようと思いついた。
それまでは普通に残業して、それをそんなには苦にはしていなかった。今のような書類の持ち出し規制も無かったので、土日は家に持ち帰って仕事をするのも常だった。過度な働き方とまで言えるほどではなかったので、働き詰めという感覚は無かった。
当時の自分が何をきっかけに早く帰ろうと思い立ったのか今になっては分からないが、それは会社の指導とかいうことではなく、自分で勝手に思い立ち、実行することになった。
早く退勤するためにやったことは、まず毎日の会社を出る時間を決めたことだった。それだけだ。
当時の私の場合は、18時つまり午後6時と決めた。
始めた直後は、時間が減ったぶん確かに業務がやや滞ったし、周囲の目もとても気になった。幸い直属の上司が酒好きで、五時をすぎるとソワソワしだすような人だったから、それに付き合う名目で早く退勤する習慣が付いた。その上司のことは好きだったし、勤務後の飲みも嫌いではなかったので呑みに付き合うのは問題なかった。
間もなく私の6時退勤が定着すると、業務も回り始めて、上司が誘ってこない時は皆が忙しそうにしているのを横目に帰宅することも増えた。他の人の業務を手伝えるような職業で無いのも良かったのかも知れない。
それから10年以上経ったある日、あの当時とは別の部署で行われた上司との面談で言われたことがあった。それは「みんながあなたのように出来るわけではないからではないから」というものだった。
私は、どういうことだろうかと上司を見たが、彼は具体的に何とは言わず、手元の紙を見ながら、そういうことだ、と言っただけだった。
その時点では18時どころか、ほぼ定時退勤が定着していた私は、家に仕事を持ち帰ることも少なくなり、業務時間数が少ない割に他と比べて業績は良い方だった。周囲の人達は相変わらず長時間残業している人も多く、もしかするとそんな部下達から上司は、あいつだけ何故早く帰るのを許すのだと言われていたのかも知れない。
(家で集中してやりたい仕事を持ち帰ったりはしていたが)業務時間の減少に反比例して業績は上がった。不思議なものだ。
そのことを周囲に言っても信じてもらえないのを良いことに、私は家で仕事をする派ということにしておいた。そうで無ければ仕事が回るはずがないと思われていた。
「みんなやってることだと思っていました」
アンケートを取ってみると、5%の社員の多くはそう言ったのだそうだ。業績を上げるのにどうしたらよいか、どう工夫したらよいか。
時間は全ての人間に平等に与えられている。その時間を有効に使う必要がある。残業しても終わらない仕事があるのはどうしてなのか、多くの社員は環境や会社のせいにするが5%の社員は自分のやり方のせいにするという。
だから、自分の行動を見直し、改善し、より少ない時間で多くの結果を得られる方法を模索し続けている。
こんなことを書くと嫌われそうだが、私が早く退勤するためにやっていたことの多くが、5%の社員がやっていたことだった。私の場合は5%の社員がやっていることで出来ていないことがたくさんあるから、真の5%の社員にはなれていないが、過去に何度かだったらなったことがあった。
もちろん、運の要素は多分にある。
人生を左右する局面でこそ、運が効くと思っている。
しかし、運以外の部分は自分でなんとかするしかない。それには、何とかなるはずだと思い込むことも重要かもしれない。
より良いやり方がきっとあるはずだ。
気づけば私はそんなことを考えることが多かった。
残業代を稼ぐことを目指すよりも早く帰ることを目指した方が自分には合っていたし良い結果になった。人によってもちろん違うとは思うが、もし早く帰りたいのに帰れないと思っている人がいたら、思い切って早く帰ってみることをお勧めしたい。もちろん、早く帰ったからと言って結果は出さなければならない。これまで以上の。
迷っている人がいたら是非、目指してみて欲しいと思う。
おわり