防災対策には最大限悲観的な想定をしてみよう
首都直下地震が起きると言われて久しいが、現在考えられている政府の被害想定を見ると、あまりにも楽観的なことに驚く。
「総理大臣官邸や中央省庁の庁舎が主に立地する東京都千代田区永田町、霞が関等の地区は、周辺の低平地と比較して、相対的に固い地盤上にあり、地震動の増幅が小さい領域に位置するため、耐震基準に適合している建物において倒壊等の大きな損傷が発生する可能性は低いとされている」そうだ。本当にそうであれば何よりだ。
また、「この地区は、電力、通信・情報システム、上下水道等が被災した場合でも、各事業者が優先的に復旧することとなっており、地震に対して一定の強靱性を有しているものということができる」ようだ。
素晴らしい対策が考えられているということだ。各事業者やその従業員が無事で、普通通りに存続していればの話だが。
被害想定というと、何万棟の建物が全壊するとか、何万人が死亡するとかそういったことが書かれ、被害額が何十兆円になると言われる。しかしこういったことは、いざ災害が起きてみればどうでも良いことで、どうやって国民を助け、国の再建を行うのかという具体的な手順や対策が現実感を持って考えられているかということの方が大切だ。けれども臭いものには蓋をしたがる国民性なのか、だれもそんな対策については考えていないようだ。
内閣府の『政府業務継続計画(首都直下地震対策)』では、迅速な初動体制の確立の欄に次のように書かれている。
つまり、あらゆる危機自体において最も高い安全性と存続性が担保されていると思われる官邸危機管理センターが使用できないときは、中央合同庁舎第5号館の内閣府、防衛省中央指揮所(新宿区市谷)、立川広域防災基地(立川市)の被害状況等を勘案し内閣総理大臣又は内閣官房長官が参集場所を何れかに決めるという。
これらはどれも東京都内であり、直下型地震の震源域にもよるが、最悪の場合はどれもが震災被害が甚大になることが予測される。これらの箇所がどれも使えない時はどうするか決まっていない(ように思える)。
立川広域防災基地は中央省庁の庁舎が使えない時の代替庁舎になっているが、全ての省庁機能を収めるには甚だ小さな施設である。
また、臨海部には基幹的広域防災拠点と称して、有明と東扇島に施設があるが、もし津波被害を受ける事態となったらこれらが使用可能かどうか疑問だ。
防衛上の理由で明かされていない対策が実は上記以外にもあることを期待したいが、そうでないとすれば、首都圏が壊滅した場合は、それは日本の政府機能が壊滅することに等しい。そうなったら日本はどうなってしまうのか。
防災対策というとまずは最悪の事態を想定し、そこから段階的により事態が悪くはない場合の対策を検討しておくべきだと思うが、現時点で政府が考えている最悪の事態は、首都圏や首都機能が壊滅するということではないということになる。
誰しも最悪の事態なんて考えたくもないし、もしそうなったら自分や家族の身の安全と生存を考えるのが第一であることは言わずもがなだから、「最悪の事態」は世で言うBCPの想定外だということなのだろう。
しかし、こと政府機能ということにおいては、「最悪の事態」が連続して起こるような『最悪の事態』ということでなければ、最大限の事態を考慮しておいても良いのではないか。
例えば首都圏壊滅によって、内閣全員が音信不通になり、中央省庁のどれもが連絡が途絶えたような場合には、大阪府知事を中心とした全国知事会で組織する代替内閣を発足させるなどの代替政府プランを考えておいても良いのではないか。
そうでなければ、日本は間違いなく露頭に迷うことになる気がする。
また、現在の被害想定においても、電力や通信、主要道路は全てではないにしても1週間で復旧するとか、電車も1ヶ月で復旧するといったことは、東日本大震災の時のように首都機能が残っている場合は確かに可能だろうが、インフラの全てがそれなりのダメージを受けた場合、例えば道路や橋が復旧していないのにどうやって発電所や電線、電柱、通信網の復旧が出来るというのだろうか。インフラ設備は自然治癒力があるとでも言うのだろうか。
私達自身も、そんな事態に遭遇した時にどうやって生き延びるのか、サバイバルの手段を身に着けておきたいところだが、それよりも大切なのは、それが起きた時、その周辺の人と手を取り合って助け合いながら生き延びる人間関係をいかにアドリブで構築出来るかという考え方を持てるようにしておくことではないか。
どうしても私の脳裏には、皆が皆我先にと物資に群がって二次災害を呼ぶような光景が浮かんできて仕方がないが。
おわり
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