⑫ インフォームドコンセントと論理
看護学校における「論理学」の最後の授業は、日常生活における論証の構造(Cの構造)で表現させる内容となります。そのためのステップとして日常生活における論証の特色(「データ」「理由づけ」が蓋然的になることや「理由づけ」が省略されること)を再確認させました。
問題は、看護の現場におけるインフォームドコンセントの学びにもつながるように以下のような内容としました。
<以下の言葉がけを論理的にせよ>
明日、10時から検査をしますので今夜から何も食べてはいけません。いいですね。大した検査ではないのでそんなに心配はいりませんよ。
今はこの問題にあるような言葉がけはなくなったのでしょうが、つい最近まではよく聞かれたものとなります。
インフォームドコンセントとは「医療行為を行う側と受ける側との十分な情報を仲立ちとした上での合意」という意味です。そこには「医療行為を行う側の当り前」を蓋然性の高いままにしたり省略したりすることは許されないことになります。つまり、そこでは「理由づけ」の省略が許されない「Cの構造」が必須となってくることになります。
まず、学生にはこの言葉がけを論証の構造で分析させました。すると、以下のようにひとつの言葉がけにふたつの論証が入っていることがわかりました。
<A>
データ:あなた は 明日10時から検査 である
↓ ← 理由づけ:この検査 は 検査前に食べてはいけない(省略)
主 張:あなた は 今夜ら何も食べてはいけない
<B>
データ:この検査 は 大した事はないもの である
↓ ← 理由づけ:大した事はないもの は 心配に及ばない(省略)
主 張:この検査 は 心配に及ばない
Aの論証は「理由づけ」が省略され、しかもその「理由づけ」は蓋然的なものとなります。Bは誰にとっても常識となりますので「理由づけ」は省略することができますが、「データ」が蓋然的です。なぜこのような論証になったのかと言えば、「医療行為を行う側の当り前」を「医療行為を受ける側の当り前」として言葉がけを行ったからなのです。
インフォームドコンセントに至るには以下のような論証の構造で言葉がけを行う必要があります。このように言葉がけをしてくれるなら、医療行為を受ける側は安心して検査を受けられることでしょう。
<A>
データ:あなた は 明日10時から検査 である
↓ 具体的な検査の内容ⅰ
↓ (空腹時血糖値測定や胃壁を診るなどの必然性)
↓ ↓
↓ ← 理由づけ:この検査 は 検査前に食べてはいけない(明示)
主 張:あなた は 今夜ら何も食べてはいけない
<B>
具体的な検査の内容ⅱ
(検査時間・方法・体への負担などの説明)
↓
データ:この検査 は 大した事はないもの である
↓ ← 理由づけ:大した事はないもの は 心配に及ばない(明示)
主 張:この検査 は 心配に及ばない
ここにおいて学生は、常に「データ」「理由づけ」の蓋然性に気を配り、蓋然性が低い場合は帰納的に蓋然性を高くしていくことができるようになりました。また、「理由づけ」については適切なものかどうか、さらに省略が可能なのかどうかも相手の立場に立って考えることができるようになりました。