④ 「学習指導要領」に示された指導事項2 ー 描写2
「描写」については、③で示したように第5学年から指導することになっています。第5学年の教科書に掲載されている『大造じいさんとガン』から「描写」を探してみると以下のようになります。
<残雪に「たにし作戦」を仕掛けるとき>
・秋の日が、美しくかがやいていました。
<残雪に「小屋作戦」を仕掛けるとき>
・あかつきの光が、小屋の中にすがすがしく流れこんできました。
<残雪に「おとり作戦」を仕掛けるとき>
・東の空が真っ赤に燃えて、朝が来ました。
<「おとり作戦」の途中で隼があらわれ残雪と戦っているとき>
・白い羽毛があかつきの空に光って散りました。
・羽が、白い花弁のように、すんだ空に飛び散りました。
<最後に残雪を空に放つとき>
・らんまんとさいたスモモの花が、その羽にふれて、雪のように清らかに、はらはらと散りました。
いかがでしょうか。どの表現も、単に空を中心とした情景を描いたものとなります。つまり、③で示してきた『ごんぎつね』の「叙述」のように、それらからは直接的に心情は想像できないものとなります。しかしながら、それらは確実に大造じいさんの心情を表している表現なのです。それらは「暗示的」に大造じいさんの心情を表現していることになるのです。
はじめの3つの「描写「」に注目してみましょう。この「描写」は3年間のスパンがあります。「秋の日が美しく~」の「描写」は、今まで散々やられていた残雪を捕えるために作戦を考えて挑むときのものです。「あかつきの光が~」は昨年の作戦が破られてしまったので新たな作戦を考えて挑むときのものです。「東の空が~」はまたまた作戦が破られてしまったので更なる作戦を考えて挑むときのものです。
この3つの「描写」の色に着目してを比較すると、赤の色がだんだんと濃くなっていっていることが読み取れます。この「赤の色がだんだん濃くなった」ということは大造じいさんの心情を表します。大造じいさんのどのような心情が「濃く」なっていったのでしょうか。
次に、4つ目以降の「描写」に注目してみてください。「白い羽毛があかつきの空に~」と赤に白が混ざってきました。そして「白い花弁のように、すんだ空に~」と赤い色がなくなります。さらに最後では「らんまんとさいたスモモの花が、その羽にふれて、雪のように~」と真っ白になるのです。
この濃い赤に白が混じり次第に赤が無くなって真っ白になるということも大造じいさんの心情を表します。大造じいさんの心情はどのように「白く」変容していったのでしょうか。
それぞれの「描写」の色の変容からは直接的に心情は想像できません。しかし、それは「暗示的に」大造じいさんの心情を想像させるものとなります。このように、「暗示的」な「叙述」を「描写」と言うのです。