③ 「立場」と「論理」(「情報」の恐ろしさ)2

②で示してきた講義のカラクリを解説します。どうして学生たちが全く異なる意見や主張を展開したのでしょうか。
この講義においては、読ませる「地球温暖化」の文章を二種類用意し、クラスの半数には以下のものを渡してあったのです(「はじめ」と「むすび」は全く同じものです。つまり「温暖化を防ごう」という意見・主張は同じものです)。

           地球の温暖化
はじめ:今、地球ではだんだん気温が上昇していくという温暖化現象が進んでいる。気温の上昇は生物に大きな影響を与えるし、南極の氷を溶かして海の水位一メートル以上も上げ、世界中の東京のような海岸都市を水没させてしまう。
まとめ:気温の上昇の原因は、生活の中でたくさんはき出される「廃熱」が集まったためと考えられる。
なか①:電車に乗った時に「ふわっ」と熱を感じるのは電車がはき出している熱である。それから家でも冷蔵庫の裏側が熱くなっていることやクーラーの室外機の近くがすごく熱いのも生活の中ではき出される熱である。これらの生活の中で生じる熱がたくさん集まって気温を上昇させているのである。
なか②:特に、工業地帯や大都市がはき出す「廃熱」は「熱のよごれ」と呼ばれるのほど大きなものである。例えばアルミ缶一個を作るのに二百ワットの電気を必要とする。二百ワットと言えば冷蔵庫を六時間付けっぱなしにした電気量である。アルミ缶一個を作るのでも、たくさんの「廃熱」を吐き出しているのだ。また、原子力発電や火力発電では発生した熱のほぼ三分の一は電気になるが、残りの三分の二は「廃熱」となって捨てられている。これらの「廃熱」がたくさん集まって気温を上昇させているのである。
むすび:地球の温暖化はこのような原因で現在も確実に進んでいる。至急、温暖化の問題に何らかの対策を立てなくては、地球生命の危機につながってしまうだろう。

この文章を読んだ学生は当然のこととして「クーラーの設定温度を上げよう」「アルミ缶は再利用しよう」という考えを持つことでしょう。

学生たちにこの種明かしをして、もう一方の「地球温暖化」の文章を読ませるとやっと納得しました。そこでこの機を捉えて、②で学んだ「論理とは表現の対象についてひとつの立場から切り取る手段に過ぎない」「切り取る立場など無限に存在するものである」ということ再確認しました。
②の学習ではわかったつもりになっていたことが、ここにおいて納得的に理解したことになります。

さらに、学生たちが日ごろ浴びるほど得ている情報について以下のように話もしました。

例えば『宇宙船地球号』という環境を考える民放のテレビ番組があったとします。今回は「地球の温暖化」について特集することになりました。この番組のスポンサーは大手の航空会社です。さて、この2つの説明文のどちらの番組を作るでしょうか。
絶対に「二酸化炭素の増加」の方の番組は作りません。それをつくったら二酸化炭素を多く吐き出す航空機業界にとってはマイナスになってしまうからです。このように、皆が毎日浴びている情報というのは情報の発信者にとって「都合のよい立場」から切り取られたものにすぎないのです。それがすべてではなく、あくまで一部なのです。今回の授業ように、都合のよい一部の情報のみを与えて読み手を思うままに動かすことを「情報操作」と言うのです。

これから先、学生たちが「表現されていない情報」(異なる立場に立って対象を見ること)まで考えられるようになることを願います。



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