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Making Their Mark ー80年x80人の女性アーティストの"名を残す"展覧会ー

Making Their Mark: the first public viewing of the Shah Garg Collection

過去80年間の最も重要な女性アーティスト80人超の作品を紹介する展覧会がニューヨークで開催中。この展覧会はコマル・シャーとガウラヴ・ガルグのコレクションの初公開であり、10年近くシャーと親交のあるセシリア・アレマーニがキュレーションを担当。ニューヨーク展は3月23日まで、引き続き3箇所の美術館などに巡回する。

作家は若手から80代、画家、彫刻家、陶芸家、歴史的なものから現代的なものまで多様。名前をあげると、エテルアドナン、ジュディシカゴ、アリアディーン、マリアラスニック、シモンリー、シェリーレヴィーン、ジョアンミッチェル、クリスティナクォールズ、ローナシンプソン、サラジー、メリーウェザーフォード、アニカイー…

展覧会サイトにキャプション付きでインスタレーションビュー(計27枚)があり展覧会を想像する助けになった。
https://www.shahgargfoundation.org/making-their-mark-exhibition

https://www.threads.net/@tnomura/post/C2FITjXvaAx

1月14日に見つけたアートの発見を上記の通り、Threadsに投稿した。字数制限のため情報以外書けず、書き足りないので以下に記す次第。

書き足らないと思ったのは、コレクターのコマル・シャーの人となりに触れたことに尽きる。シャーはコレクター歴10年ほどなのだが、これまでのアートでは少数派だった女性や西欧以外のアートに対する高い熱意、少数派であることを問題視するシャーが美術館の委員会に名を連ねるなどの行動力、そういう部分に触発されたからだ。

なお、この投稿は、コレクションの財団のページや、シャーのインタビューを構成して書いた。出典は最後に書き添えておく。


コレクターについて

コマル・シャー&ガウラヴ・ガルグはトップ200に名を連ねるコレクターである。

インドのアーメダバードで生まれた元技術系エグゼクティブのコマル・シャー。彼女は10年ほど前に美術品の収集を始めたばかりだが、夫のガウラヴ・ガルグとともに、今では300点近いコレクションを形成するに至った(彼女はアート・アドバイザーとは仕事をしていない)。その90%が女性作家によるものだ。シャー・ガルグ・コレクションの使命は、芸術における女性の力を認め、促進し、解き放つことである。

彼らの略歴を書いておく。
シャーは、インドの大学でコンピュータサイエンスの学位を取得し、1991 年に学校教育を続けるために渡米。スタンフォード大学で修士号を取得し、カリフォルニア大学バークレー校のハース・スクール・オブ・ビジネスで MBA の学位を取得。その後、オラクル、ネットスケープ、ヤフーなどのハイテク企業でエンジニアや幹部社員として働くかたわら、さまざまな非営利団体の資金調達キャンペーンを組織してきた。一方のガルグは2013年にシリコンバレーを拠点とするウィング・ベンチャー・キャピタルを共同設立した同社のマネージング・パートナーだ。

シャーがコレクションを開始する前の3年間は、いわば準備期間だった。アートを探しに、できる限り多くのイベントに行き、写真を撮っていたという。男性的なハイテク業界がバックグラウンドだが(上司はすべて男性で、自分の部下の95%は男性)、女性の作品を集めようと思い始めてからは、男性的であることではなく、筋肉質で強い表現力を持っていることが重要と考えた。作品のどこがユニークなのか、作品が何を言おうとしているのか、アーティストのバックグラウンドは何なのか。そのような見方を自分で身に付けるために多くのことを見たり、学ぶ必要がある。彼女にとってよかったのは、身近に素晴らしいメンターがいたことだった。

現在では、シャーは、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)の収蔵品委員会やロンドンのテート・モダンの北米収蔵品委員会のメンバーを務めるなど、美術館の作品取得において重要な役割を果たしている。そして2018年には、SFMOMAとテート・アメリカズ財団の理事に就任した。

コレクターが展覧会を開くまで

彼らのコレクションの中心は抽象画だ。彼らが作品を鑑賞する中で、例えば、ロスコやカンディンスキーは、視覚的な琴線に触れた。そのように、「抽象画は、性別、人種、地域の境界を取り払うという点で、非常に統一的な力を持っている。普遍的な物語を語ることができる。」と語っている。

ところで、2018年の調査によると、米国の18の主要美術館のコレクションは、圧倒的に男性(87%)と白人(85%)であった。シャーは、上述の通り美術館で理事を務めるなどして、この問題を注視してきた。「美術館は機敏でなければならないが、構造的に非常に重くなっているため、難しい場合もあるのだけど」と前置きした上で、個人コレクターなど他のアクターが、「補完的な役割を果たしている」と指摘した。

彼女の目標は、不当に無視されている女性アーティストの作品を収集することであり、また、正当に賞賛されている女性アーティストの作品を収集することでもある。

最近では、コレクションは工芸や繊維のアーティストにまで広がっている。「ファイン・アートと定義されるものの門番は男性であり、テキスタイルや工芸はその一部ではなかった」と気づいたのだ。

「 コレクションは一部の人々のものではなく、人口の51パーセントを代表しているのだ。コレクションの目的、それは物語を語り、地域社会や一般の人々に知ってもらうこと。」と、自分をコレクターというよりも、むしろ保管機関であると考えるまでになった。

一方、女性アーティストのオークション価格が記録的な高値となり、ケイティ・ヘッセルの『The Story of Art Without Men』(2022年)のような出版物が賞賛されたことを受けて、二人は変化に気づく。

「コレクションを若い人たちに見てもらうことは、とても重要なこと。芸術における女性の物語を伝えるには、それが最適だ」。

そして、ショーをキュレーションするために、シャーは2022年のヴェネチア・ビエンナーレのキュレーター、セシリア・アレマーニを招いた。このビエンナーレは、シュルレアリスムのアーティスト、レオノーラ・キャリントンの著書『夢のミルク』にインスパイアされたもので、過小評価されている女性アーティストに光を当てたものだった。

展覧会の見どころ

展覧会で際立っているのは、新進気鋭の若手アーティストから70代、80代の遅咲きの女性アーティスト、画家、彫刻家、陶芸家まで、歴史的なものから現代的なものまで、驚くほど多様なアーティストと作品が展示されていることだ。

キュレーターのアレマーニは、この展覧会を3つの柱で構成することを明らかにした。
・フォームとの関わり
・系図と伝承を探る
・専門分野を超えた対話を促進する

シャーは、抽象画が持つ、私たちをゆっくりとさせ、寄り添わせる力に惹かれてきた。

アレマーニは、この展覧会を「時には脇に置かれることもある分野間の対話」と捉え、コレクションの「精巧なテキスタイル作品群」に言及している。高江洲敏子の陶芸作品とエテル・アドナンの「Untitled」(2014年)、トゥルーデ・ゲルモンプレの吊り下げテキスタイル作品「Untitled(Space Hanging)」(1965年)が対話する祭壇のような高台で、私たちはこれを最もよく目にすることができる。アドナンが愛した山々の身体性が、釉薬の球体詩やテキスタイルの細長いフォルムと調和している。それらが一体となって、エテル・アドナンの風光明媚な命題を拡張する、質感のある展望を示唆している。「あのプラットフォームを見て、風景が見えたんだ。」高江洲の陶芸作品については、「抽象絵画でもあります。施された釉薬、表面加工、テクスチャーはとても絵画的で、単なる器ではありません」。
(なお、高江洲敏子については、生誕100周年を記念する20年ぶりとなる大規模巡回回顧展が、ニューヨークのイサム・ノグチ美術館で今年3月20日〜7月28日に開催される予定)

まとまりのある部屋の中では、繊維やロープを使った造形や質感を通して、身体が作品に関与している。例えば、フランソワーズ・グロッセンの編んだカーテンのような彫刻「コンタクトIII」(1977年)は、2階の部屋を横断し、私たちが向き合わなければならない物質的なボリュームとして身体を押し付けている。神話や先祖の遺物とともに、キルト、ガラスビーズ、樹脂で表現された可能性の地図も提示している。

その他、要チェックな事柄

書籍 Making Their Mark: Art by Women in the Shah Garg Collection

実は、彼らのコレクション初公開の展覧会より前に、コレクションの書籍が出版されている。2023年5月にマーク・ゴッドフリーとケイティ・シーゲル共編の書籍として出版。

この本は、コレクションに関する多くの本とは異なり、美術史的な資料であり、コレクションにとどまらないテーマを扱った徹底したエッセイで構成されている。それは、女性の作品に関する学術的なものにしたかった、そしてエッセイについてはコレクションよりも広い網を張りたかった、というシャーの考えによるものだ。エッセイの執筆者には、ストーリーを適切に伝えると思われる作品を掲載するように依頼した。あるアーティストが別のアーティストについて書くことで、アーティスト間の社会的な交流と捉えることができるが、アーティストは孤立して作品を作っているわけではなく、影響や対話を見せるようにしたかったとのことだ。

マーク・ゴッドフリー

上述の書籍の編者の一人。元テート美術館のキュレーターであり、シャーのメンター。シャーが恩師とホイットニー・ビエンナーレに行ったときのことが印象的。シャーが、初めて会ったアーティストたちをどう理解すべきか、特にお互いの関係はどうなのかを尋ねた。ゴッドフリーは、これらのアーティストがどのように相互につながっているか、影響力のネットワーク全体を描いてくれた、という。それを見てみたいものだが、自分なりにファミリーツリー的な図示を作るのは意味があるのではないか。
https://www.instagram.com/markgodfrey1973/

ケイティ・シーゲル

上述の書籍の編者の一人。作家でありストーニー・ブルック大学の美術教授。マーク・ゴッドフリーと同様、シャーのメンターであり、"隠れた声をすべて表に出してくれる私の北極星 "と呼んでいる。

パメラ・ジョイナー

シャーに影響を与えた、コレクターのトップ200の一人。
https://artnewsjapan.com/article/1152

ボブ・レニー

シャーに影響を与えた、コレクターのトップ200の一人。https://artnewsjapan.com/article/1369

ジャネット・ソーベル

今回の展覧会の入り口近くにある抽象絵画の作家。彼女は、ドリップ・ペインティングの最初のアーティストとして広く知られている。
ソーベルが出品したグループ展にジャクソン・ポロックと批評家クレメント・グリーンバーグがともに訪れ、その後の展開(以下)が嫌な意味で凄い。

グリーンバーグは彼女の絵を主婦のプリミティブなものと切り捨てた。
1946年、グッゲンハイムはソベルに生涯唯一の個展を開き、「ジャネット・ソーベルは、おそらく最終的にはこの国で最も重要なシュルレアリスムの画家として知られるようになるだろう」と、ディーラーだったシドニー・ジャニスは書いている。
が、ソベルの作品は、1940年代に急成長したニューヨーク美術界のどのカテゴリーにも容易に当てはまらなかった。ソベルはフォーク・アーティストであり、シュルレアリストであり、抽象表現主義者でもあったが、批評家たちは彼女を "プリミティブ "と呼ぶのが最も簡単だと考えた。ジャニスの批評的評価があったものの、ソーベルはニューヨークのアートシーンからはすぐに忘れ去られてしまった。
https://news.artnet.com/art-world-archives/janet-sobel-ukrainian-abstract-artist-2111646

大竹富江

シャーが注目しているアーティストの一人。結婚から逃れてブラジルに移住することを決意した日本人女性。
シャーの作品との出会いは、アートバーゼルのガレリア・ナラ・ローズラーのブースで、彼女の作品に目を奪われた。
https://www.institutotomieohtake.org.br/

シャーが注目するギャラリー

Garth Greenan
https://www.garthgreenan.com/
Greene Naftali
https://greenenaftaligallery.com/
Lehmann Maupin
https://www.lehmannmaupin.com/
Ortuzar Projects
https://www.ortuzarprojects.com/


出典:

Photo: https://www.shahgargfoundation.org/making-their-mark-exhibition

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