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「1億円の低カロリー」


 甘やかしているという自覚はあった。
「運動をさせなければ、余命は長くないです」
 獣医が噛んで含めるように言った。僕は頷いたが、俯いていたので伝わらなかったかもしれない。
 愛猫が病気になってしまったのは飼い主の責任だ。欲しいと鳴かれるままにご飯を与え、眠そうな時はいつまでも寝かせ、運動もさせなかった。
「ごめん」
 毛並みを撫でると一度瞼を上げたが、それも億劫そうだった。
 それから僕は、猫に少しずつダイエットをさせた。運動だけではない、私財を投げうって、猫用の健康食の開発に取り組んだ。元より養う家族は他に居ない。それに市販の健康食は、僕には気休めにしか感じられなかったのだ。
 累計一億円を投じたところで、低カロリーのご飯がようやく納得のいく完全体となった。
 僕はご飯を持って猫の部屋に入る。彼女はすとんと前足を下ろすと、二又に割れた尻尾を揺らしながら歩み寄ってくる。
 愛猫が病気だと診断されてから、何十年経っただろうか。


(空白含め410字)

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