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何とか千歳着

朝四時半起床。荷物を準備して急いで羽田に向かった。かなり早めに空港に着いた。9時30分発の便には余裕で間に合う。早めにチェックインしてラウンジでゆっくりしようと思い、カウンターの前に立つ。徐にカードを提示すると「お客様、羽田発千歳行きの航空券はお持ちですか?」と申し訳なさそうにかつ丁重に聞いてくる。何を訳わからんことをと、思ったが、もしやまた?と嫌な記憶が蘇って来た。

昨年、家内と出雲大社に行くつもりで飛行機の予約をしていたのだが、行きの便と帰りの便を逆にとっていたのだ、唖然としたが、キャンセルを余儀なくされた(自分のせいだが)。出雲旅行はあっけなく消滅し、家内はがっかりしていた。そのことを思い出し、心臓の鼓動がはやくなり、目をきょどりながら、昨日事前チェックインしたスマホの画面を見つけ出し、凝視すると、やっぱりであった。新千歳発9時30分羽田行きの便がしっかりチェックイン済みとなっていた。空港に行かずにチェックインでけるんかいな、便理になったもんやなぁと何の疑いもなくスマホの操作をしていた自分が情け無い。あぁ、またやってもうた。

物凄ショックだったが、えらいもんで2回目ともなると、落ち着き払って「いや、持ってないですね」とさも当然というな態度で、静かに答えていた。「お客様、もしかすると、羽田と千歳を逆にとられてましたでしょうか?」と傷口に粗塩を優しく塗りつけるように聞いてくる。もうそれしかないやん、と内心思いつつも、私はまた平然と「まあ、そう言うことになりますね、結果的には」と答え、動揺を悟られないよう、こんなことはよくあるんで驚くには値しないんですよ的に答えた。受付の若い女性は「どうしましょう、取られた便をキャンセルして払い戻しし、新たに羽田千歳をお取り直ししましょうか?」と親身に確認してくれる。「まあ、そちらがそこまで言うなら、そこまでして私を千歳に行かせたいのなら」というような雰囲気を醸し出しながら、もちろん口には出さず「そうしてください」と落ち着き払って依頼した。そのしっかりした若い女性はチャカチャカとキーボードを叩き、すぐさま払い戻しをしてくれた。しかも手数料やキャンセル料はとらなかった。「ただいまですと、12時台の便に空席がございますのでこちらで宜しいでしょうか」との確認に、良かった〜と思いつつもおくびにも出さず「はい」とだけ答え、待っていると「便は確保できましたが、もしよろしけれは、9時台からの千歳行きの便の空席待ちも入れておきましょうか?」と聞かれたので、ここで初めて、少し前のめりで「あっ、はい、お願いします!」と懇願した。女性はテキパキと処理し、笑顔で航空券と空席待ちのチケットを手渡してくれた。やるやん、ANAやるやん、と思いながら、手荷物検査の列に並んだ。

9時発の便に空席待ちはでなかったが、9時半の便で出たため、搭乗口でチェックインした。しかし、予定していた便の機内整備に時間がかかり、搭乗口が58番から64番に変更となり、一時間半近く搭乗が遅れた。前日から、到着したら札幌駅近くのお気に入りのお店でスープカレーを食べようと決めていた目論みを早々にあきらめたものの、想定より早く空席待ち待ちが出たことにより望みを繋ぎ、しっかりカレーの口になっていたがあきらめた。

漸く搭乗できるようになり、チケットをかざして先へ進もうとすると、係員の女性が「大変お待たせ致しました」と申し訳無さそうに頭をさげながら、封筒を手渡してくれた。福澤諭吉ならぬ野口英世が凛々しいチョビ髭を静かにたたえてこちらをのぞいていた。

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