02亜桜と朔人
こちらは『褐色の蛇~国家認定緩和医・望月亜桜の日常』の「プレ公開版」です。定期購読マガジン『コトバとコミュニティの実験場』メンバー限定となっています。正式版は2021年春頃に無料公開予定です。
道の向こうで、ひゃあっという声がした。
薄暑来る中学への通学路。川崎は昔から都会だったけど、亜桜の通う中学はなぜか鬱蒼とした森に囲まれた小高い丘の上にあって、道は細く、舗装もまばらで入り組んでいた。昔、この丘には城があって、そこで働く武士の子弟たちが学んだ講武所の跡地がうんたらかんたら。歴史というものに興味がない亜桜にとっては、ただ単に通いにくくてしんどい道だった。
叫び声が聞こえた方に亜桜が歩いていくと、真新しい学ランに身を包んだひょろっとした男の子が、道の真ん中で固まっている。近づいて行って、男の子の先を見ると――蛇だ。緑がかった褐色の、2mほどの蛇が、道を横切ろうとしたかたちで止まっていた。にらみ合う、男の子と蛇。もっとも、男の子の方はもう既にかなりの逃げ腰だったが。
「君、どうしたの?」
亜桜が男の子の横に回って声をかける。見れば、彼の白い顔は汗でびっしょり濡れていた。
「へ、蛇が・・・」
男の子は蛇からその細長い目を離すことができない。
――蛇に睨まれたキツネか
亜桜はぷっと噴き出した。
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