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早期緩和ケアの行き詰まり

 2010年に「早期からの緩和ケア」がQOLを改善する、もしかしたら寿命も延長するかもしれない、という画期的な研究結果が報告されてもうちょっとで15年。
 世界各国では、がんなどの重大な疾患に罹患した患者に対し、なるべく早期から緩和ケアが関われるように体制を整えてきた。

 一方で、日本ではどうだろう。確かに、国内においてもがん対策基本方針をもとに「(がんの)診断時からの緩和ケア」が推奨され、緩和医療学会を中心に「緩和ケアがあることを知り、苦痛があれば我慢せずに緩和ケアを受けましょう」と啓発を続けてきた。
 しかし先日、あるSNSで患者会の方々が、
「会員からの相談を受けていても、みんな『緩和ケアがどういうもので、それが大切である』ということは知っている。でも、いざ緩和ケアの専門機関につながりたいと希望すると『緩和ケアを受けるにはまだ早い』などと言われてしまう。緩和ケアを知らないのではなく、どうつながればいいかがわからない」
との発言をされたことが話題となり、サバイバーや家族の方などから緩和ケアに対する不満が噴出した。

 現実として、国や学会としては「早期からの緩和ケア」を推奨し続けているにも関わらず、国内の緩和ケア専門機関では、他院で抗がん治療中の患者が通院できるための緩和ケア外来を設置していない場合も多い。病院によっては、自院の患者に対しても緩和ケア外来を設置していない場合もある。これでは到底、「早期からの緩和ケア」を実践できる体制になっているとはいえない。

 一般社団法人プラスケアでは2021年1月、緩和ケア病棟を有する全国457施設に対し、「診断時からの緩和ケア」を実施する外来を設置しているかどうかについて調査票を送付した。
 2月までで219施設(48%)から回答があり、そのうち167施設(37%)で「診断時からの緩和ケア」の実践が行われていることが明らかとなった。また追加で457施設のWebサイトに公開されている情報を加えると、合わせて209施設(46%)で早期からの緩和ケア外来を実施していた。また、このうち「他院に抗がん治療で通院中でも、緩和ケアは地元で受けられる」体制を提供している施設は138(30%)であった。
 この数値をどう考えるかは人それぞれだろう。地域による偏りもある。ただ、逆に言えば未回答の施設でも実際には実践しているところもあるだろうし、また今回調査対象となった施設以外の、がん拠点病院や診療所でも、早期からの緩和ケアを実践している施設もあるだろう。その意味では、「早期からの緩和ケアにつながりたくてもつながれない」と嘆くほどの状況では実際には無いのではないのかもしれない。
 つまり、早期緩和ケアに関する問題のひとつは、適切に情報が公開されていない、そしてその情報が患者・家族、そしてがん治療をする医師たちにも届いていなかった(届かせようとしていなかった)ということはあるかと思う。上記調査結果は、「早期からの緩和ケア外来Web」にて情報公開を開始した。この情報が適切なところに届き、一人でも多くの方の助けになれば幸いである。

 しかし、この調査結果からも見て取れるように、まだまだ早期緩和ケアに取り組んでいない地域や病院が多々あることは事実である。
 もちろん、「主治医として診療してくれる緩和ケア医」を明日からすぐにでも全国に配備せよ、というのは難しい。緩和ケア専門医も十分な数がいるとは言い難いためだ。しかしせめて、外来緩和ケアコンサルテーションやアウトリーチ機能、また看護師が中心となって行う早期緩和ケア体制など、各地域において専門家ができることは多くあるはずだ。
 また、その体制づくりのためには治療医側の協力も欠かせない。お互いが支え合い、患者・家族にとって最もベストな地域緩和ケア体制を作っていけるよう、これからもシステムを作っていく必要がある。

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