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過去のレコ評(2017-7)

(2017年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「ASPARAGUS」ASPARAGUS
pci music
3p3b-81

切なく激しい楽曲にタイトなリズム隊。変わらないアスパラガスが5年ぶりに帰ってきた。1曲目、重心が高めの音像は、彼らの前のめりな今を映し出しているようだ。2曲目、日本人好みのBメロが泣かせる。しかも、クリシェ進行ながら微妙に転回形を使っているところにセンスの良さを感じる。個人的に気になったのは4曲目、テンションコードで掻き鳴らされるアコギに、歪んだベースが動き回り、聴いたことのないようなグルーブがある。キーEに対して、Eフラットで始まるインター部分は独特の捩れがあり面白い。全体的にハーモニーも最小限で、あくまで三人でライブ演奏出来る楽曲が並んでいるのに飽きさせないのは、楽曲の良さと確かな演奏力だろう。ドラムスの一瀬正和は、細美武士がフロントを務めるthe
HIATUSやMONOEYESのメンバーでもある。これらのバンドに興味のある方も是非。

「BOOTLEG」米津玄師
Sony Music Records
SRCL-9571

まず、ジャケットのセンスが良い。歌詞のリアルさ、共感性が支持を集めているのはよく分かるが、音楽的な特徴はどこか。1曲目は土臭い系のEDM的ながら、キックやベースの音数が少ないことで「踊らない日本人向け」となっている。蔦屋好位置の共同アレンジ2曲目と5曲目は、クラップ・スナップ系のビートが目立つことで周波数を満遍なく使っている。が、クラップが無くても成立するジャンルであるとも言え、その違和感こそが個性だ。3曲目、全般的にスムーズなコード進行でありながら、サビの最後のひねりが効いている。他には7曲目のビートのもたり方は、明らかにJ・ディラ以降のヒップホップマナーだし、8曲目の1,3キックに対するシンベの動きはダンスミュージックとしか言いようがない。つまり、この縦横無尽さこそが彼の強みなのだ。

「OSTINATO」井上鑑
UNIVERSAL MUSIC
UICZ-4402

先日、佐野元春のドキュメント番組を見た。ニューヨークで井上鑑とリハーサルをしていた。70年代から今まで、多くのアーティストをサポートしてきた彼の、久々のソロ作品。1曲目、音像が濃厚。曲が重厚。バイオリンの2トップを始め、錚々たるメンツ。ニュアンスフルな器楽アンサンブルが目の前でうねる。2曲目は、スピーカーが壊れたかと思うような音から始まる。内省的な情景。チェリストだった父親に捧げた曲かと想像。途中から出てくるキックの音の処理が独特。グランカッサ(=オーケストラの大太鼓)のように、曲を包む。特筆すべきは6曲目。ブラスロックなイントロは往年のシカゴを彷彿とさせ、歌が始まると80年代にタイムスリップしたような感覚。流行りとは無縁の底力を感じさせる作品。

「Vu Ja De」細野晴臣
ビクターエンタテインメント
VICL-64872

デジャブじゃなくてブジャデ。カバー曲で構成されたディスク1は、全般的にオーセンティックなブラッシングドラムスにアップライトベースが心地よく、秋から冬の夜にぴったりだ。それでは書き下ろし曲のディスク2はどうかというと、ドラムスよりもパーカッションが主体。楽器構成も自由。とはいえ雰囲気には統一感があり、音楽性としては前作のHeavenly
MusicやHoSoNoVaの延長線状にある。青葉市子と歌う7曲目は、もはやスタンダード。過去の音源よりも、声が前に出てくるミックスとなっている。9曲目のMohicanはリボンマイクで録音されたのだろうか。3,8,11曲目のインストが挟まれることで、風通しが良い。後半に進むほど音の実験や遊びが増え、ファンを裏切らずかつ飽きさせない工夫が感じられる。

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