木の文化の再生に向けてその六    西欧の紙について

これまで、我が国の和紙についてその調度品にまで高められた多彩な利用について述べてきたが、ここで、今日の紙の源流である西欧の紙についても触れておかねばならないだろう。西欧での製紙技術は我が国に遅れること5世紀後の12世紀に入ってからであるとされている。
製紙の歴史は我が国に比べて浅いが、その技術の発展の仕方は全く異なった方向に向けられたと言って良いだろう。西欧における製紙の目的は、そのほとんどが書物の印刷のためだけであったと言っても過言ではない。この目的のために新しい形質の紙を工夫し、今日の大量生産技術を生み出した。しかし、この技術から生れた紙は今日の文明社会を作り出すための手段としての役割にすぎず、量の向上は見られたが紙の素材そのものが調度として用いられるまで質の向上はなされなかった。両者の発展の仕方の相違は依って立つ環境の影響がいかに大きいかを示しているのではないだろうか。
明治の文明開花以降、紙の量は増大したが紙の文化は衰退の一途をたどり、今日に至っているのを見ても環境を形作るもののありかたに依って人の情緒は変わっていくことが分かるであろう。
さて、西欧が主導するこの物質文明の巨大なトレンドに巻き込まれることなく木の文化の再生を成し遂げるのか。(続く)

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野村隆哉
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