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短篇小説「某校の卒業式」
今日は晴れて我が校の卒業式であった。それはこのたび、晴れて卒業を迎えた私にとって忘れられぬ卒業式となった。忘れるほうが難しい、といったほうが正確かもしれない。
我が校の卒業式は、廃線となったかつての最寄り駅のホームを貸し切りにして行われる。だからといって、鉄道関係の専門学校というわけではない。すでになんの役にも立たない駅が依然として取り壊されず保存されているのは、我が校の卒業式のためであるという説もある。
ホームの端から端まで、パイプ椅子を二列にずらりと並べて卒業生が着席する。それを送る在校生のほうは、ホーム下の両脇を走る線路上から、ホームを見上げる形でのオールスタンディング形式となっており、入場時には改札で五百円のワンドリンク代が徴収される。
線路を埋める在校生らの後方には簡易式のバーカウンターが設置され、入場時に交換したコインでドリンクを注文することができる。選べるドリンクは「絞りたて酪農牛乳」のみとなっているが、だからといって我が校が農業高校だというわけではない。
やがて跨線橋の上に我が校の教師陣が現れ、構内スピーカー越しに卒業式の開始が告げられる。
跨線橋は本来、隣の上りホームと我が卒業生の並ぶ下りホームをつなぐ役割を果たしていたが、上りホームはすでに取り壊されている。なのにつながる相手を失った跨線橋がまだ残されたままであるのは、やはり年に一度、この卒業式に使用するためなのかもしれなかった。
スピーカー越しに名前を呼ばれた卒業生は、ホームをてくてくと歩いてゆき、階段を上って跨線橋の真ん中に待つ校長先生の前まで卒業証書をもらい受けにいくことになる。ホームを歩いている最中には、両サイドの線路上から座布団、白いタオル、くまのプーさんのぬいぐるみ等がひっきりなしに飛んでくるが、だからといって我が校が、相撲部屋やボクシングスクールやフィギュアスケート強豪校であるわけではない。
他にも歌ありダンスあり、輪投げやり投げあり、小芝居ありドッキリありと、式は盛り沢山な内容となっているが、いずれも我が校の教育内容とリンクするものでは一切ありはしない。
そしていよいよ式の最後、僕ら卒業生は、それまで三年間ずっと頭にかぶっていたお魚の帽子を一斉に空へと投げ放つ。だからといって我が校が水産学校ではないという事実は、もはや言うまでもあるまい。