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自粛期間のセルフレジャーバイブル『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』
自粛でレジャー渇望症な我々のための漫画
誰もがそうだと思いますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、外出したり人と会ったりする機会がめっきり減りました。
ふと思い立ってGoogleマップのタイムライン機能で去年の7月の自分の動きを見てみたのですが、出かけていない日は2日間だけでした。一方、今年の7月は近所のコンビニだけ行ったみたいな日を外出にカウントしても、月の半分以上の日は家にこもっていました。劇的な生活習慣の変化です。
仕事はリモート、買い物は通販ができるのでそんなに困らないんですが、つらいのはレジャーの選択肢の少なさです。旅行は難しいし、各種イベントも軒並み中止。自分のご機嫌を取るための、心の栄養分が不足している感覚にとらわれた人も少なくないのではないでしょうか。
ですが代わりに漫画を大量に読んでいたら、「自分はなんと未熟だったのか…。」と頭をぶん殴ってくれる作品と出会うことができました。それが『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』です。
小さな事でも追求すれば、どんなことでも喜びになる
本作は一言で言うと「清野とおるさんが、おこだわり人にインタビューをして、そのおこだわりを紹介する漫画」です。
「おこだわり人」とは、「日常生活の中で別にこだわらなくてもいい事にあえてこだわり、そこに自分だけの幸せを見出しコソコソと楽しんでいる輩」を清野さんが名付けた造語です。
清野さんいわく、「おこだわり人」たちは自分のおこだわりをおおっぴらにせずにコソコソと楽しんでいるロクデナシ。清野さんは、彼らの自分だけで楽しみを独占しているやり方が許せなくて、怒っています。そういうわけで、おこだわりを俺にも分けてくれ!とおこだわり人たちにグイグイ迫って紹介するのです。
ただ「おこだわり」と言うと、料理や釣りみたいなよくある趣味かな? とお思いかもしれません。が、この漫画ではそんなクソデカカテゴリは一切登場しません。
たとえば連載第1話で紹介される「おこだわり人」は「ツナ缶の男」。
ツナ缶の男、彼は別に至高のツナ缶を作っている職人とかそういうのじゃありません。ただただ、独自の方法でツナ缶を食べるのにこだわっているだけの男です。
『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』(清野とおる/講談社)1巻より引用
ツナ缶(いなば ライトツナフレーク)をひらき、マヨネーズを死ぬほどかけて、その上にコショウも死ぬほどかけて、使い捨ての箸でよく混ぜ、氷結グレープフルーツ味を飲みつつ食う…。本当にそれだけです。清野さんのリアクションは激しいですが、文字に起こすと小さいこと小さいこと。
他にも「ベランダの男」、「白湯の男」、「土日、人に会わぬ男」など、紹介されるおこだわり人は皆、「ツナ缶の男」のように極端に小さなスケールのこだわりを異常な熱量で語ります。人が喜びを覚えるパターンの想像を超えたバリエーションを思い知らされます。
「おこだわり」は自分のゴキゲンのためのセルフレジャー
このように本作で非常にコミカルに描かれるおこだわり人たちですが、昨今の状況において必要な姿勢は、まさにこうした「おこだわり」なんじゃないでしょうか。
自分になじむ何かを信じて、それにこだわり続けること。他人へのウケや共感を意識してプロフィール欄に書いてみたり、一言で理解されるような”趣味”なんかじゃなく、ただただ自分をゴキゲンにするための営み。そんなレジャーを見つけられれば、どんな時だって幸福なんじゃないでしょうか。
与えられるものだけを待っていると、与えられなくなったときに足りなくなってしまう、本作にはそんな自分の至らなさを指摘されているようです。
それが『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』。完璧なセルフレジャーの先輩図鑑である本作を手にとって、ぜひ自粛期間を乗り切るための自分だけの「おこだわり」を見つけてみてください。