「転売ヤーと卸(おろし)業は同じ」は間違い!仲卸の仕事に見る圧倒的なプロフェッショナリズム『築地魚河岸三代目』
【レビュアー/澤村晋作】
昨今、転売屋が社会問題化して来ていますね。
それに対して、「卸と同じだ」と開き直る意見も散見されます。
生産者と消費者の間に入って利益を得るから同じと言いたいのでしょう。
とんでもない!!
そういった意見は卸というものを理解していないから出て来るものです。
では、実際、卸とはどんな職業でしょうか?
それを知るのにオススメなのが『築地魚河岸三代目』です。
1・ド素人魚河岸へ行く
本作の主人公・赤木旬太郎(作中ではもっぱら、「三代目」と呼ばれます)はタイトルの通り、築地市場(現在は豊洲に移転)で鮮魚の仲卸を営む「魚辰」の三代目です。(※仲卸は、大卸と小売業を仲介するお仕事)
しかし、元銀行マンで全くのド素人です。鮮魚の仲卸は奥さんの実家で、それを継いだので、魚河岸や仲卸の知識が全くありません。
知識がないというのは、読者と同じ目線ということです。
そのため、三代目の奮闘を追いかけていくだけで、自然と魚や魚河岸や仲卸について知ることができるわけです。
よく出来ている……!
三代目は、魚を食べるのが大好きで、その食い意地のあまり即、産地まで行くくらいです。
彼の純粋さ、素直さ、そして行動力は、職人気質な江戸っ子の築地の男たちにも認められて行きます。
2・キビナゴありませんか?
話は戻りますが、卸と転売の違いとは何でしょうか?
それがよくわかるエピソードが19巻収録の「キビナゴありませんか?」です。
この話では、取引先のスーパーに新しい担当者が着任。「産直」(産地直送)をウリにし、仲卸から買うことを不合理だと否定し、取引の縮小を告げてきます。
市場を通さないことでコストダウンを図り、更に鮮度も上がるという主張です。そんな彼は、九州からキビナゴを取り寄せる産直フェアを開催します。
ところが、その当日、産地の九州が時化で漁船が操業停止。
目玉のキビナゴが到着しない最悪の事態になってしまいます。
わずかに獲れたぶんも、普段から付き合いのあるところが優先と、回してくれません。
そこに助け船を出したのは、魚辰でした。大赤字を被ってでも、代わりの質の良い魚を用意し、フェアに集まったお客さんに提供します。
しかも、キビナゴを用意することにも成功します。
三代目はキビナゴについて調べ、関東でも獲れることを知り、供給元である大卸に頼んで関東で獲れたキビナゴを回してもらったのです。
このお話では、
「一つの産地に頼った産直は何かのトラブルで入らないこともある」
「築地ではシーズンを通して質の良い魚を安定して提供できる」
「人と人のつながり、信頼関係が大事」
ということが示されています。
3・仲卸と転売の違い
まさにそれらの点が、転売と卸の大きな違いなのです。
まず、転売屋は品質に責任を持ちません。
また、安定供給ができません。
加えて、トラブル時に対応してくれる保証がありません。
逆に言えば卸とは
品質を保証し、
安定して商品を提供し、
トラブル時に対応できる出来るネットワークを持っている、
責任感を持つプロフェッショナル
であるということです。
生産者と消費者の間に入るという点だけで同列に語るのはあまりにも失礼だということがわかると思います。
・おわりに
今回は、卸とは何かという部分について書きましたが、『築地魚河岸三代目』は読むと日本の食文化への造詣が深まり、そして何より漫画として非常に面白い作品です。
どこから読んでも面白い作品ですので、気軽に読んでみて欲しいです。三代目のように実際に食べたくなっちゃうことうけ合い。魚を食べるのが楽しくなって、食生活を豊かにしてくれる本かもしれません。
余談ですが、高級寿司ネタなどを扱う「新宮」の三代目・新宮秀一郎は、漫画史上最大のツンデレだと思うので、ぜひ読んでみて欲しいです。