見出し画像

N◯Kが絶対に放送できない夜のプロフェッショナル・仕事の流儀『AV烈伝』

プロフェッショナル。それは、自分の仕事に誇りを持ち、常に最上の成果を出し続ける一流の職業人のことを指す。

僕たちは、プロフェッショナルが好きだ。テレビや雑誌をはじめ、いたるところで各分野の最前線で活躍するプロたちの話が溢れていて、インターネットなんかだと、ちょっと変わったことをしただけでその道のプロとしてインタビューされることだってしばしばある。まぁ、インターネットに溢れるそれをプロと呼ぶかどうかはさておいても、僕たちがプロフェッショナルの話を好きだという事実には変わりない。

そんなプロフェッショナルの仕事哲学に迫った番組で、有名なものといえば『プロフェッショナル 仕事の流儀』だろう。一流職業人に長期間密着し、肌理の細かい取材・編集を経て作り上げられた番組は、さすがはN◯Kといったところだ。

しかし、世の中にはどれだけ素晴らしい仕事哲学を持ち、超一流の実績を出し続けても地上波のテレビで取り上げられない“プロ”がいる。『AV烈伝』に描かれているのは、そんな人たちの仕事の矜持である。

AV界の革命児・高橋がなりの行動哲学はまるでベンチャー経営者

はじめに言っておくが、この漫画はエロを目的とした漫画ではない。

『AV烈伝』は、メーカー社長や監督、男優、女優など、アダルトビデオ全盛期に名を馳せた人物たちに焦点を当て、彼ら彼女らの生き様や仕事観を描写したセミドキュメンタリー漫画。登場するのは、アラサー・アラフォー世代の、特に男性にとっては、お世話になりすぎて足を向けて寝られないようなレジェンドたちばかりだ。

ここで、全6巻に登場するレジェンドのうち、印象的な二人のエピソードを紹介してみよう。

まずは、高橋がなり氏。夢見る人たちがプレゼンをして大物起業家(虎)たちが出資可否を判断する伝説的な番組『マネーの虎』の虎としても強烈な個性を放っていた彼は、AV業界のマンモス企業「ソフト・オン・デマンド(以下、SOD)」の創業者でもある。

SODといえば、マジックミラー号や全裸フィギュアスケート、SOD社員出演モノなど、「企画のデマンド」と言われるほどバラエティに富んだAV作品を生み出している会社だ。SODさんには僕も足を向けて寝れない程度にはお世話になっている。

がなり氏はSODを立ち上げる前、テリー伊藤が在籍していたテレビ制作会社で「天才たけしの元気が出るテレビ」のADをしていた。制作会社がコンテンツの著作権を持てないことや、いちサラリーマンがどれだけがんばったところで給料の上限はたかだか知れていることなど、現実を思い知らされることとなる。

こうした経験を経て、自身が著作権を持てるAVメーカーの立ち上げを決意したのだ。そして、テレビ番組制作で得たノウハウを活かして、既存のAV作品にないモノを作り上げていく。

「自分の予測する『自分の限界』という壁を超える経験をしろ」
「金より大切な目的を持て。(金は手段であって目的ではないはずだ)」
「常識を身に付け常識を疑え。(常識は思考能力のない人のための道具である場合が多い)」

これらは「脱・負け犬十カ条」というがなり氏の語る行動哲学の一部だが、まるでベンチャー経営者のそれのように鋭く尖っている。

「本物(リアリティ)」を追求したカンパニー松尾の到達点

カンパニー松尾といえば、「ハメ撮り」という技法を極めた、真実のSEXの求道者でもある。

彼が入社したのが、安達かおるという「人間のむき出しの姿」を映像に収めることにただならぬこだわりを持つAV監督が経営する会社であった。そんな社長の下で働いたカンパニー氏もまた、本物のSEXを求めて作品作りに挑戦する。

既存の作品づくりに対する不満を抱えていたものの、かと言って安達かおるのようなキワモノの作品を作るのも違う。自分のスタイルを模索するうちに、とある女優に恋をしたカンパニー氏。募る想いを抑えきれずその女優に告白をしてしまうのだが、この経験が後のカンパニー松尾の代名詞となるハメ撮り技法へと導いていったそうだ。

カンパニー氏いわく、「ハメ撮りは私小説的作品」である。愛のあるSEXを追求した先に到達した監督兼男優兼カメラマンという一人三役の離れ業。僕も、まるで自分が画面越しの女性と愛し合っているかのような錯覚に陥らせてくれるこの撮影手法に、ノーベル平和賞を贈りたいほどにはお世話になっている。

ライフワークのように全国の素人娘との情事を映像に収める彼には、この先も予定調和のない、リアリティあふれた作品を作り続けてもらいたい。

加藤鷹、チョコボール向井、小室友里……。厳しい世界だからこそ多い、AVレジェンドたちに学ぶこと

最近、さまざまな女優や男優たちが表舞台に登場する機会が増えてきた。女優に憧れる女性も増えているらしく、アダルト業界もクリーンになってきているという話も耳にする。

しかし、どこまでいっても仕事は仕事。生半可な気持ちで人気者になれるほど甘い業界ではない。本作に登場するようなレジェンドたちにも、ハンパな人は一人もいなかった。

2011年の統計だが、AV女優経験者は15万人を超え、年間35,000本もの作品が世に送り出されていると言われる。そんな世界の中で第一線にいる人たちは、すべからく自分の仕事に誇りを持っている。ただのエロい人だけではないことが、『AV烈伝』を通して伝わるはずだ。

僕自身、業界はまったく違うがコンテンツを扱う職業人として、彼ら彼女らから学ぶことは多い。レジェンドたちが画面の中では絶対に見せない姿を、Kindleで少し覗いてみてはいかがだろうか。

WRITTEN by タクヤコロク@編集者
※東京マンガレビュアーズのTwitterはコチラ