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これは、オレのもう1つの人生だ!『新黒沢 最強伝説』

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江貴文

福本伸行の絵は正直苦手だった。

(漫画家に絵が苦手っていうとショックを受けるから言うなと漫画編集者にはよく言われているのだけど。。それは人の性器の良し悪しを言うようなものだとも)

20年以上前の近代麻雀に彼の出世作『アカギ』が連載されていた時も、飛ばして読んでいたほどである。

もちろん熱狂的なファンが多い事も知っていたし『君がオヤジになる前に』という私の著作の表紙に彼を起用したいと言ってきた時、正直戸惑ったものの、面白い企画だなあと感心した。

その前に『カイジ』の映画化を私の知人演出家が手がけており、試写会を見に行ってあの「ざわざわ」が見事に再現されていた。

「ざわざわ」はもちろん漫画界でも有数の文字表現なので知っていたけど、カイジは絵が苦手なので読んでなかった。だから映画で初めて見たわけだが、結構面白かったのもあって福本伸行という作家に興味を持っていたことは事実である。

流石に彼の漫画をほとんど読まずに対談するのは良くないと思って、編集者から届けられた彼の著作を貪り読んだ。

その中で一番おもしろかったのが『最強伝説 黒沢』だ。

いや、面白いなんてもんじゃない。非モテの厨二病がそのまま素人童貞でオッサンになるとこうなるんだ、というまさに典型例というか、一歩間違うと俺も黒沢になっていたんじゃないかという恐怖感のようなものを感じながら彼に感情引入しながら読んでしまうのである。

有名な「アジフライ」のエピソードは特に心を揺さぶられる。

建設現場で働く黒沢は相変わらず現場監督にすらなれず若者と一緒に働いている。

そんな彼らから少しでも人望を得ようと仕出しのとんかつ弁当にアジフライをこっそり入れるのだが、当然の如く誰にも気づかれない。それにショックを受ける黒沢。。。。みたいな終始すれ違いの、浅はかな黒沢はどんどん暴走して最後は植物状態に至るのだが。。。

そんな黒沢が数年の眠りを経て現代に帰ってきた!しかもものすごいパワーで。

以前と同じくモテたい、人望を得たいという考えはパワーアップしているし、さらに歳をとって既に50代。

そして相変わらずのすれ違い厨二病マインドで病院から一気にホームレスになってしまうのだ!以前は平社員とはいえ一応建設会社の正社員だったのに!

福本伸行のモテたい、もっとビッグになりたいマインドがギュッと凝縮されている、彼の分身とも言えるこの黒沢、読んで損はないと思う!