冬の寒さに挫けそうな夜は、涙を流し、心をほぐしてくれる猫漫画で癒やされよう『夜廻り猫』
【レビュアー/本村もも】
こんにちは。ついこの間までクーラーをつけていたのに、エアコンを休ませる間もなく今は暖房をつけています。一体秋は何をしていたのか…。心の準備ができないまま冬を迎え、現実を受け止められないです。
寒いというだけでどうしてこうも人間は、寂しさと惨めさと虚しさと悲しみを感じるのでしょうか。今日はそんな冬の寒さを、じんわり心の中から温めてくれる一冊、『夜廻り猫』をご紹介したいと思います。
『夜廻り猫』の主人公は、頭に缶詰を乗せて半天を着た野良猫の遠藤。遠藤は「泣く子はいねが〜」と涙の匂いを探しながら、夜の街をめぐります。漫画は8コマという短さで構成され、基本的には1ページ完結。深谷かほる先生がtwitterで公開を始めたのがきっかけの漫画なので、フキダシの文字は先生の優しい手書きのまま。
『夜廻り猫』(深谷かほる/講談社) 1巻より引用
遠藤は心優しい猫ではあるものの、スーパーヒーローではありません。泣いている人のところへ行って、窮地から救い出すわけでも、悪を懲らしめてくれるわけでもありません。それどころか遠藤自身もいつもお腹を空かせています。
そんな遠藤が涙の匂いを見つけてすることは、涙のわけを聞くこと。相手が子どもでも老人でも、男でも女でも、人間でも動物でも。涙のわけはそれぞれ。理不尽な世の中に対する涙、自分がやってきたことへの後悔の涙、苦労が報われた嬉し涙。
みんなそれぞれの人生を生きるなかで、涙を流したくなるような夜もある。ふと心が動いてしまった夜に、そっと隣で涙を受け止めてくれるのが遠藤の夜廻りなのです。
『夜廻り猫』(深谷かほる/講談社) 1巻より引用
本作には、ちょっぴり目つきは悪いけど心優しい主人公の遠藤以外にも、遠藤とはちがったアプローチで温もりを表現してくれるレギュラーの動物たちが登場します。
私が好きなのはわがまま猫のモネです。いつもわがままを言って飼い主であるお父さんとお母さんを振り回していますが、モネ自身も遠藤も、そのわがままを「仕事」と称しています。
全力で甘えて、とてもまっすぐに自分を必要としてくれるモネは、お父さんとお母さんにとっては、自分自身の価値を感じさせてくれる幸せの存在。ときには素直に甘えることが、自分のためだけではなく他人も幸せにできることを教えてくれるモネの大事な仕事。モネのように生きたいなとさえ思ってしまいます。
『夜廻り猫』(深谷かほる/講談社) 7巻より引用
その他にも、カラスに襲われていたところを、遠藤に救われて育てられている子猫の重郎や、グルメな作家先生宅で可愛がられている飼い猫の宙、元野良猫から飼い猫になり、犬のらぴお姉ちゃんから家族になることを勉強中のラミーなど、いつまでも見守っていたくなるような魅力的なキャラクターがたくさん登場します。
『夜廻り猫』を寒い日の夜に読むと、涙腺がぐだぐだになってしまうのですが、泣いた後にはじんわり心が温かくなって、間違いなく「明日も頑張ろう」と思えるパワーをもらえます。そして同じお話でも読み返してみると、1度目には泣かなかった話で涙が流れたり、声を出して笑ってしまったり。
人生のフェーズやそのときの自分自身の状態で、感じ方が大きく変わる漫画なので、ずっと手元に置いて何度も読み返したい作品です。冬の寒さに挫けそうになった時、ぜひ『夜廻り猫』で乗り切ってみてください。