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『MASTERキートン Reマスター』 遅すぎた名作のリバイバル

※本記事は、「マンガ新聞」にて過去に掲載されたレビューを転載したものです。(編集部)

【レビュアー/堀江貴文

『MASTERキートン』は、私が大好きな漫画のベスト10には間違いなく入る漫画だ、いやベスト5、ベスト3くらいに入れてもいいくらいである。

主人公の平賀=キートン太一は日英のハーフで、元英国軍特殊部隊のSAS出身の考古学者で保険会社のオプというまあ、とてつもない経歴を持つ、でもちょっとおっちょこちょいな所もある憎めない男だ。

数学者の妻と離婚してからもずっと彼女のことを想っているロマンチストな所もあるが、天才肌の娘には頭が上がらない。

そんな彼は、世界中の遺跡を巡る保険詐欺事件を調査して犯人を見つけ出す「オプ」という探偵仕事を、相棒のダニエル(といっても彼はほとんど何もしない)とやっている。

博士号を持たないがゆえに教授にもなれず、多くの時期は「オプ」で稼ぎながらほそぼそと考古学の講師をしているという立場だ。

しかし元SASでサバイバルのプロであることから、教官を務めていた時期もある。

当初の連載当時は、まだまだ大英帝国は北アイルランド独立運動でIRAの問題を抱えていた時期である。

フォークランド紛争の傷跡も癒えていない時期であった事から、彼も様々な事件に巻き込まれている。しかしサバイバル能力のお陰でなんとか生き延びてきたという感じだ。

そんな戦争のプロ達の間でもMASTERと呼ばれ、DOCTOR(博士号)は持たずMASTER(修士課程卒)止まりであることと引っ掛けて『MASTERキートン』と呼ばれていたのである。

ヨーロッパ文明の起源が、ドナウ川流域の女系が中心となった民族であることを確信してきた彼は、その発掘をすることがライフワークだった。

今回のReマスターではその文明が存在することを、発掘により裏付けを得たものの、相変わらず博士論文を書く時間がなくMASTER止まりであることで学会から認められないという状態で、物語は始まっている。

『MASTERキートン』は考古学的な知見も最新の情報をふんだんに取り入れながら、Reマスターではクロアチア独立戦争などの軍事的な要素も取り入れている。

前回の連載から身代金目的の誘拐犯を専門的に扱う、ネゴシエーターの存在など、まさにいまイスラム国の問題などでも出てきそうなあまり表には出てこないネタも扱っている。

キートンが依頼を受けている、世界最大の保険グループ「ロイズ」の発祥が、香辛料を求めてアジアに渡っていた船乗り達の集まるカフェであり、元々はギャンブルから生まれていた事など雑学のネタとしても使える漫画であったことも評価できると思う。

しかし、今回のReマスターの復活には時間がかかりすぎた。もうあれから20年である。

どんなに素晴らしい漫画も続編がここまで開いてしまうと、愛読者の熱意も冷めてしまうものである。

それが原作者をめぐる問題であったことは残念である。その辺は、浦沢直樹の『MASTERキートン』が絶版になった大人の事情などに詳しい。

美味しんぼの原作者で炎上の常連である雁屋哲さんが大きく関わっていたりするのが、またまた香ばしい感じがして興味深いのだが、せっかくの人気漫画が印税の配分問題や、編集者と原作者と漫画家のいびつな関係によって盛り下がってしまうのは良くない事だ。

これからは益々コンプライアンスの問題とかで叩かれやすい状況になっているのだから、漫画界や出版界はその辺を透明化していくしかないのだろう。

でもReマスターは期待に違わないさすが『MASTERキートン』というクオリティを保っている。続編に期待したいと思う。