推しとの結婚はハッピーエンド?『ホタルノヒカリ』作者が描く、全然夢見させてくれない恋愛漫画『聖ラブサバイバーズ』
【レビュアー/上原梓】
大好きな、運命の人と結ばれたい…誰もが一度は思い描く夢の世界。そんなハッピーエンディング展開の最高峰のひとつに、「推しとの結婚」があります。ずっと憧れてきたアイドルや俳優との結婚だなんて、まさに完っ璧なゴールインじゃないでしょうか。
妄想の中ではね…!
本日は、そんな乙女のドリーミー・シチュエーションをグッと現実に寄せた作品をご紹介させてください。ひうらさとる先生の『聖ラブサバイバーズ』です!!
フィジカルな関係は一切なし!?リアルに描かれた幸せの向こう側
商社のOLをしていた相澤ハル。ある雑誌記事を読み、バンドマン・王子和弘に恋してしまいます。彼に近づきたい一心で仕事を辞め、フリーライターの世界に飛び込むことに。そして、ついに取材先で王子に巡り会えたハル。以来、6年かけて少しずつ距離を縮め、ついに、王子からプロポーズされることに!
と、普通ならここまで単行本4巻分くらいかけて語られそうなストーリー。ところが、ここまでの展開は、まだ前半中の前半。わずか4話でさらり描かれたものなんです。ストーリーの本番はむしろこれから。
プロポーズを受け、すごくチートなハッピーエンドになったと思った矢先…結婚式の当日に、ハルは王子にこんな宣言をされるのです。
『聖ラブサバイバーズ』(ひうらさとる/講談社)1巻より引用
大好きな人から身体を求められることが一切ない、本当の意味の“バージンロード”を歩き出すことになったハル。推しと過ごす日々は、たしかに幸せではある。けど、どこか満たされない…そんなハルの人生は、一体どうなるのでしょうか?
ドリームとリアルの振り幅の達人、ひうら先生の手腕は今作も抜群!
『ホタルノヒカリ』で「干物女」というパワーワードを世に送り出したひうら先生。続編でもある『ホタルノヒカリSP』では、「SP(真空パック)女」という更なるパワーワードを繰り出しつつ、推しがいる暮らしがいかに楽しく、しかしながらいかに奇異な視線に晒されるかを、リアルに描いて下さいました!
ひうら先生の作品は、いつも「あれ?私の毎日を見てます?」くらいリアルな女性の日常が描かれます。
私でも過ごしてそうな日常に、ボーンと夢のようなシチュエーションを投げこんでくれるので、そのドキドキが日常の延長にあるような気持ちになれて最高なんです。
例えば『ホタルノヒカリ』の干物女。主人公の蛍の引きこもった生態のリアルさが共感を呼びつつ、そこにドリーム感溢れる「部長」を投入し、私たちのハートをかき乱して下さいました。
『ホタルノヒカリSP』は、恋愛経験がないまま「真空パック」された、アイドルオタクのOLが主人公。そんなオタクの生態を、ご自身もドルヲタであるひうら先生がありのままに描いてくれて、「あるあるー!」と膝を打ってる中に投入される、すごいハイスペック男子…! 最高にドキドキしながら読んだものです。
この2作は、恋愛に紆余曲折があっても、最終的には幸せなゴールに向かっていってるという安心感を感じながら読み進めていました。
ところが今回の『聖ラブサバイバーズ』は、今までとは少し様子が違うんです。
全然夢見させてくれない恋愛漫画。だが、それがいい…!
今までのひうら先生作品は、始めは楽しくも、どことなく物足りなかった暮らしが、急に恋愛という強火であぶられ、沸騰して夢の世界へ連れて行ってくれるような展開でした。しかし、この『聖ラブサバイバーズ』はちょっと違います。
いきなり夢の世界からスタートし、そこに「現実」という氷の塊を投げ込まれるような、今までと真逆と言える展開なのです。
まずは冒頭。ネタバレになるので明言はしませんが、「え!?なんでこんなことに!?」という「遠くなさそうな未来」のシーンが描かれます。最初から「ハッピーエンドの向こう側にある、ハッピーではないかもしれない現実が待っている」と明言されるのです。
さらに、推しである夫からの「フィジカルなことはナシでいいよね?」という宣言。
推しとの結婚という、普通の少女漫画なら幸せの頂点であるタイミングで、いきなりはしごを外されたハル。
幸せなのか、不幸なのかすら定かではない新生活が始まるわけですが、この、「幸せか不幸か定かではない感じ」がですね……めっちゃリアル。実際私たちの人生ってそんなもんだもの!
ここからハルは、一体どのような経緯を経て、作品冒頭に描かれたシーンにつながっていくのでしょうか!? そして、それはハルにとって、幸せな展開なのか、不幸せな展開なのか。彼女の冒険を、ドキドキしながら見守りたいと思います…!
また、この単行本と同日には、『ホタルノヒカリBABY』の5巻も発売されました! 蛍と部長の間に、なんと息子ちゃんが誕生! その赤ちゃんの目線で夫婦の生活が語られるという、こちらも最高に楽しい作品なので、合わせてお楽しみください!
それにしても、同時にこの2作品を連載しているひうら先生のパワフルさが何よりも凄いです…リスペクト!