2024ミュンヘン観劇記録(2)Agamemnon
3月7日、ミュンヘン Residenz Theaterにてウルリッヒ・ラッシェ演出の『Agamemnon』。
出演 Pia Händler, Thomas Lettow, Moritz Treunfels, Niklas Mitteregger, Max Rothbart, Lilianne Amuat, Anna Bardavelidze, Barbara Horvath, Myriam Schröder, Lukas Rüppel
演奏 Sebastian Hausl, Felix Kolb, Christina Lehaci, Fabian Strauss
作 アイスキュロス
翻訳 Walter Jens
演出/舞台美術 ウルリッヒ・ラッシェ
音楽/音楽監督 Nico van Wersch
衣装 Romy Springsguth
合唱指揮 Jürgen Lehmann
照明 Gerrit Jurda
ドラマトゥルギー Michael Billenkamp
『群盗』のベルトコンベエアというかキャタピラというかの上を歩かされる演出を観て以来、注目しているウルリッヒ・ラッシェ演出のアイスキュロス『アガメムノン』。ラッシェ自身も語っているように、この物語の中心はむしろクリュタイムネストラーだ。クリュタイムネストラー以外の俳優はコロスも演じる。
「アンビエントでミニマルな生演奏の音の中、俳優たちが動き続ける盆の上を歩きながら語る」スタイルが定着しているラッシェ演出であるから、今回はどんなサウンドデザインでどんな機構が見られるのだろう? と新作が出るたびに楽しみである。いつかこのスタイルを終える時がくるのだろうか。
今回はおとなしめだが、盆の上で歩かされる人物からは、〈時代の潮流〉に抗いがたく流され歩かされ続けねばならない人間の〈運命〉を感じる。歩みを止めたとて、その場にとどまることができず、機械に流され、進まされてしまう。わたし達は時間や他人の思惑に対して立ち止まることができない。
照明の色彩が抜群に美しく、戦場の場面で焚かれる大量のスモークがよく映える。リズムに乗った言葉、コラス達の唱和、4台のマリンバと複数の太鼓とシンセサイザーの重低音が響く。〈憎悪〉〈情〉の渦巻きが劇場全体に充満する。古典世界に期待する迫力。孤高のクリュタイムネストラーを演じるPia Händlerの声が素晴らしい。第一声からの独白で心を支配され、涙が出てしまった。女性コロスを従えイフゲニアとカッサンドラ(とコロス)を演じるLilianne Amuatも印象に残った。最後、入浴中のアガメムノンを殺害したクリュタイムネストラーが、布(網)に絡まったアガメムノンを遺体を引き摺りながら全裸で現れる。ドイツ演劇において全裸は何度も見ているが、最もクールで美しい立ち姿だった。照明の力だろう。「我らはあなたに従いましょう」とクリュタイムネストラーの後ろを歩き始めるコロス、クリュタイムネストラーに並んで歩き出すアイギストスに感動さえしてしまった。