2024ベルリン観劇記録(28)Die Walküre
3月19日、シュターツオーパーで『ニーベルングの指環』4部作第二夜『ワルキューレ』鑑賞。
指揮 Philippe Jordan
演出/舞台美術 Dmitri Tcherniakov
衣装 Elena Zaytseva
照明 Gleb Filshtinsky
映像 Alexey Poluboyarinov
出演 Robert Watson, Vida Miknevičiūtė, René Pape, Tomasz Konieczny, Anja Kampe, Claudia Mahnke, Clara Nadeshdin, Christiane Kohl, Michal Doron, Alexandra Ionis, Anna Samuil, Ekaterina Chayka-Rubinstein, Aytaj Shikhalizada, Anna Kissjudit, STAATSKAPELLE BERLIN
舞台美術が現代的だとリアリティラインの設定が難しい。舞台美術がファタジーで衣装が現代的の方がリアリティラインを下げやすいのは、大道具がミザンに関わってくるからだろう。わたしが演劇的に見過ぎなのかもしれないが、一幕と二幕は腑に落ちなかった。物語、関係性の変化、衝動、キッカケを音楽に頼りすぎではないか。特に間奏は音楽が語るものの所作と動線での表現が不十分なため、目を瞑っていても変化がない。笑えない「そうはならんやろ」も多く、不満がたまった。例えばジークリンデが「こういう女はそういうことしがち」という理屈のないまま、リビングで髪をとかしまくる。なぜか料理途中のキッチンカウンターに髪留めがある。十分な間があるのだから、髪留めはベッドサイドの引き出しから取るのもよかっただろう。ジークムントは意味をなさないところから剣を取り出す。恋に落ちるきっかけも明確ではない。フンディングからジークリンデへの支配的な態度やDV描写などがあれば、いきなり入ってきた男を歓迎する理由も理解するのだが。幕開きの映像で「容疑者逃走中」とニュース映像を流しているのだから、間奏でTVをつけるなり、新聞を読んで緊張するなりの描写を入れてもよかった。間を保たせられていないのが残念だ。
第三幕の指揮者登場で大きな拍手が起こった。待ってました、期待してるぞの拍手だったろう。演出に関しては特筆すべきものがないが、山場であるワルキューレたちの歌唱がすばらしく、楽しかった。頭の中がヘリコプターとサーフィンになるか、あるいはバイク乗り集団か(あるドキュメンタリー番組を観ていた際、プーチン支持者の集団がバイクで遠征に行く場面で、ワルキューレの騎行が流れた)とワクワクしていたのだが、実際にイメージが浮かんだのは後者だった。スケ番あるいは女愚連隊というのか。「ウチらの新しい妹だよ!」「赤ちゃんがいるんだってさ、守ってやろうぜ!」シスターフッドが熱い悪狂連、「やんのか!」奮火流出、夜露四苦!「暴断オヤジ!行ってくるぜ!」「バカ娘が!達者でなァッ!」。ワルキューレの合唱のおかげで、最後まで我慢してよかったと思えた。ブリュンヒルデとヴォータンも凄まじい迫力。これは劇場でなければ体験できない。
次が5時間30分、その次は5時間50分。やる方も見る方も大変だ。がんばろう。