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2024ベルリン観劇記録(8)Bad Kingdom

2月15日ベルリン8本目。
Schaubühneでファルク・リヒターの23/24シーズン最新作。


テキスト Falk Richter
演出 Falk Richter
舞台美術 Katrin Hoffmann
衣装 Andy Besuch
音楽 Daniel Freitag
映像 Sébastien Dupouey
ドラマトゥルギー Nils Haarmann
照明 Ehrlich Schneider
出演 Diyar Ilhan, Jule Böwe, Martin Bruchmann, Marcel Kohler, Ursina Lardi, Kay Bartholomäus Schulze, Hêvîn Tekin



 何もかもぜんぶ奇妙な悪夢なんだろうか? 映画のセットの中にいるのなら、おかしな脚本が撮影中だな? わたし達はセラピー中にロールプレイで演じているキャラクターを見ているんだろうか? いや、もしかしたらこれって、ぜんぶ現実? 現在の「Bad Kingdom」はどうも信用できない。次々と折り重なってゆく危機の只中で、どんどん床が抜けていく感じ、この感覚とどう付き合ったらいいんだろう、と自問自答する。闘う価値のある関係性はあるんだろうか? あなた達は孤独から抜け出す方法を探し、また親密すぎる関係を怖がりもする。あなたは考える、もつれあう人間関係や友人関係において、どうしたら安心を引き出す、あるいは進んで引き出されるえるだろう、どうしたら将来の展望を見つけることができるだろう?
 ファルク・リヒターの新作は、短く断片的な場面と現実の可能性のヴァリエーションを描き、今を切り取る。

https://www.schaubuehne.de/de/produktionen/bad-kingdom.html?ID_Vorstellung=5805


 休憩を挟み150分。シャウビューネのSall Bにて、満席。
 テアタートレッフェンに招聘されたThe Silenceに続き、振り付けを封印したファルク・リヒターの新作。Bad Kingdomとはつまりドイツの現代社会のことだ。リヒターは一貫して〈今の孤独〉や〈大人の傷〉をテーマに創作している。
 冒頭、男性が一人登場して、「こうやって始まる。五十代半ばの男が出てきて、部屋の真ん中に立っている。深夜、彼は孤独で、誰もそばにいない。友達は、いるだろう。でも今、そばにいてくれる人はいない……」(大まかにこういった内容)と語り出す。いわゆる〈中年の危機〉にまつわるエピソード、〈孤独〉についての見解がリヒターらしい率直な言葉で語られていく。モノローグ、シーンの断片を繋ぐのは映像と歌だ。以前のような振付が入るタンツテアター的な作りではないため、全体としては散漫な印象を受けた。また、今まさにその年齢に達したリヒター自身の感じる〈孤独の質〉が、40代までとは違うのだろうと想像する。今までに観たり読んできた作品と比べると、刺すような痛みよりも素朴な不満へのユーモアを強く感じた。若いゲイカップル、中年シスップルの性生活の孤独と悩み、動物の演奏にTiktokの再生数が負けるピアニスト、インフルエンサー、アルゴリズムに支配されて表示されるSNS上のミーム、その合間に目に入る残酷な破壊と虐殺の情報。オチは犬。中年男女のヌードも隠さない演出はいかにもベルリンの演劇だ。
 言葉をあまり飾らないリヒターらしいというのか、年齢と共に変化する表現を追えるのは嬉しい。クリエイティブスタッフや出演者も何人かは継続して関わっている。

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Tamaki Ohkawa 大川珠季
ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!