2024ベルリン観劇記録(25)Prinz Friedrich von Homburg
3月16日、シャウビューネで『Prinz Friedrich von Homburg』ホンブルク公子フリードリヒ。「士官であることと人間であることは両立しうるのか?」
演出 Jette Steckel
舞台美術 Florian Lösche
衣装 Pauline Hüners
音楽 Mark Badur
振付 Dominika Knapik
映像 Zaza Rusadze
ドラマトゥルギー Bettina Ehrlich
照明 Erich Schneider
出演 Jule Böwe, Holger Bülow, Stephanie Eidt, Bastian Reiber, Renato Schuch, Alina Vimbai Strähler, Axel Wandtke
150分、2023年11月14日初演。Jette Steckelがとうとうシャウビューネで演出。急病のためBastiean Reiber の代わりにKonrad Singerがホーエンツォレルン伯爵を演じた。
ドイツ語のwikipediaによる情報だが、本作はクライストの時代にほとんど上演されず、その後ベルリンでは上演禁止令まで出されている。オットー・フォン・ビスマルクは「フリードリヒは死を恐れる臆病な葦だ」と評し、第三帝国において悪用もされたそうだ。戦後、徐々に上演回数が増えているという。わたしはコロナ禍で無料公開されたシャウビューネのアーカイブ映像で、ブルーノ・ガンツがフリードリヒを演じるペーター・シュタイン演出の上演(1972年)を観ている。記憶を頼りに語るため確証はないが、「夢見る(夢遊病)青年が戦争を通して正気になる物語」だった。
一方、本作を貫くのは、戦場での過酷な経験によるトラウマと悪夢だ。冒頭、フリードリヒが一人の兵士を殺すシークエンスが重い。敵兵士と対峙する格好になり、フリードリヒが撃つ。相手は痛がり、なかなか死なない。恐慌状態で離れ、うずくまるフリードリヒ。「死ね!さっさと死ね!……死んでくれよ――ッ!」過呼吸になりほとんど泣いている。敵兵に近づき「ああ、すまなかった、ごめん、ごめん、ゆるしてくれ、たのむ、すまなかった、落ち着いて、落ち着いてくれ、傷を見せ……アァッ……」傷を確認し、もう助からないと悟る。最終的にナイフで息の根を止める。月桂冠ではなく、ホンブルクが敵の装備から外したベルトリンクを敵兵の亡霊によって被せられる。マイクが拾う呼吸の音がつらい。呼吸を拾いたい場面はおそらく集音のレベルが高くなっていた。この経験を通して彼は重い心の傷を負い、最後まで苦しめられる。夢なんかではない、夢であればどれだけよかったか。一連のシーンを終え、味方に発見されたところで暗転、『HOMBURG』と映写される。最後、原作では恩赦を拒否した後に刑場で夢から覚めるが、この上演では月桂冠を投げ捨て、自ら発砲、自死する。
舞台面手前から奥に向かって急な傾斜がついている八百屋のアクティングエリア。土塁の積まれた塹壕、あるいは堡塁がそのまま築かれている。穴を掘る場面で4層程度は土塁が抜かれていた。どの程度実際に土嚢が積まれているのか、興味がある。奥には大型の照明機材が吊り下げられ、昇降する。照明とプロジェクションの演出が劇的かつ苦痛に満ちたものであった。