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【漫画】『嘘喰い』10巻感想~正しさから生まれた悪~

嘘喰い10巻を読みました。
相変わらず今回も白熱していました。
漫画に結構ある展開だと思いますが、悪者だと思っていた敵が死に際に良い奴になっちゃうことってありますよね。
それ見て切なくなっちゃうみたいな…
例えばセーラームーンのネフライト様もそうでした…涙
そこまで綺麗ではないですが、今回の嘘喰いはそういう気持ちになりました。私だけかもしれませんが…。
感想書きます。

※ネタバレ注意

○『嘘喰い』10巻  読んだ感想

10巻は、雪井出の過去の回想から始まります。
雪井出の父親は、警察の関係者だと思われますが、とにかく秩序を優先する人物だったようです。
秩序を守るためならば全ての行為が許されるというのです。それがたとえ殺人であっても。
なんつー父親でしょう。
雪井出は、この父親の教えを盲信します。
奇病により10年の眠りにつきますが、その眠りから覚めても父の考えを尊重する姿勢に変わりはありませんでした。
しかもIQ190あるそうです。天才。
雪井出は「完璧なる権力の尖兵」として、警察に利用されていくことになります。首謀者は後半に登場します。

さて、雪井出と斑目貘による、迷宮3回戦が始まります。
雪井出がこの勝負で賭けるものは次のようになりました。
①2001年4月9日に、雪井出が屋形越えをして惨敗した日(本当は斑目貘が惨敗したが、2回戦目で雪井出に譲渡された)
②10億円
③2回戦で斑目貘が負けた100万円の日付のアリバイ
④梶くんから奪った日付(2004年11月5日)
⑤雪井出が行っているギャンブルに関わっている警察内部の人間の名前を明らかにすること。
以上です。
雪井出は、完全に足元を見られています。
しかし、雪井出はそれを受け入れるしかありません。そうしなければ死んでしまいますから。

さて、今回のギャンブルについてですが、雪井出はとある手品のトリックを利用していました。
手品などで利用される手法らしいので、具体的にここで書くことは控えたいと思います。
とにかく、雪井出は案の定、とある手法を利用して斑目貘が書き入れた壁の位置を把握することができていました。
雪井出は斑目貘の作成した迷路の全貌を完全に把握できているので、その迷路を普通に攻略していきます。
しかし、出口の手前に来て最後の一手で存在するはずのない壁にぶつかってしまいました。
斑目貘は最初から雪井出のイカサマの全貌に気づいていました。
しかし、雪井出もそのことに気づいていて、全力で対策をしたのです。
考えられる可能性は全てつぶして、必ず勝てると考えていました。
しかし、結果は斑目貘の勝利。
雪井出は自身の全てを賭けたギャンブルに敗北してしまいました。

ここで斑目貘は雪井出に対して深い話をします。
「秩序を正とするなら、その正は悪が生む…。悪から生まれるのが秩序ある正ってやつだ。正から生まれた悪はタチが悪い、それはただの卑…ユッキーは卑だ」
これは結構、核心をついた言葉だと思いました。
インターネットが普及してから、SNSによる誹謗中傷に関する問題についてよく耳にするようになりました。
誹謗中傷は完全なる悪で、これがネット上でたくさん行われて、人の命が失われるまでの大きな事件になったので、世間的にも「誹謗中傷はやめましょう!」と、大々的に謳われるようになりました。
世間のこの流れは、悪から生まれた正だと思います。
しかし、誹謗中傷をなくすために、誹謗中傷をした人を過度に責め立てる事例も出てきていると思います。
もちろん誹謗中傷をすること自体が完全に悪いのですが、それをしてしまった人を人権がないように扱うのはまた違う気がします。
誹謗中傷をした奴だからそいつは死んで当然、みたいな考え方に繋がっちゃうのは、行き過ぎた正義ではないでしょうか。
そうなってしまうと、それは悪と言わざるをえません。
嘘喰いには全く関係のない話ですが、私は斑目貘の言葉を聞いてそういうことが頭に浮かびました。

さて、雪井出は負けてしまったので、賭けたものをすべて斑目貘に差し出さねばなりません。
気になるのは、このギャンブルに加担している警察内部の人間についてです。
雪井出の口から伝えられた人物は、天真征一(あまこ せいいち)という男でした。
天真は雪井出が幼いころや、10年の眠りから目覚めたときに、雪井出に対して「こんなギャンブルはすべきでない」「私が何とかするからこんな汚いことに手を染めるのはやめなさい」的な言葉をかけています。
しかし天真は本心からそんなことは思っていませんでした。
雪井出が父親の信念を引き継ぎ、このギャンブルをする決心がついていると知っていて、パフォーマンスとして耳障りの良い言葉を言っていただけなのです。
そういう、性格の悪い男です。

さて、勝負の決着がつきました。
屋形越えの敗北による命の取り立てが雪井出に対して執行されることになります。
門倉は、なるべく苦しまないように雪井出を殺そうとしますが、雪井出はその瞬間、嗜眠性脳炎が再発して、再び長い眠りについてしまったのです。
斑目貘は、そんな雪井出をみて、「もう、死んでるようなもんじゃねぇ?」と門倉に告げます。
それを聞いた門倉も「…貘様、この門倉雄大、そのような解釈…嫌いではありません」と、命の取り立てを見送りました。
夢の中で、雪井出は両親と手をつなぎ、楽しそうに笑っていました。
嘘喰いの世界では珍しい、優しい世界でした。

雪井出とのギャンブルが終了し、斑目貘が勝ち取ったお金を持って帰ろうとしたところ、出口をふさぐようにとある人物がやってきました。
私はこの人物が出た瞬間、「矢沢永吉!?」と叫びました。すごく似ていると思うのですが、どうでしょうか?
矢沢永吉の人相を3段階くらい悪くしたような男がいました。
名前は箕輪勢一(みのわ せいいち)です。
かれは警視庁密葬課の人間らしいです。
密葬課!?なにそれ!?現実にはないですよね?あったらやばいですよね。
そして、その後ろに天真もついてきていました。
天真は入ってくるなり、意識を失っている雪井出に駆け寄り、心配しているような声掛けをします。
しかし、斑目貘は天真のこの態度が嘘であることにすぐさま気づき、それを指摘します。
天真はすぐに本性を現し、斑目貘を殺そうとしてきました。
仮にここら辺を実写化するとなったら、天真は香川照之にやってほしいです。似合いそう。

天真は、門倉が斑目貘の味方なのかそうでないのかを探っていましたが、どうやら味方ではないとわかると、箕輪を使って殺そうとしてきました。
しかし、ここで斑目貘の最強の見方がやってきます。
マルコです!
高度な変装をして、警視庁に侵入していました。なんと有能な子なんでしょう!
門倉はマルコを見て、廃ビルの悪魔ロデムだと確信し、緊張感を高めています。斑目貘もそうですが、マルコも大概有名人なんですね。

箕輪は1人が2人になっただけ、大金を守りながら戦う奴らなんて話にならん、と言い捨てています。
しかし、ここで門倉とその部下たちが斑目貘の獲得した大金の前に立ちはだかりました。
門倉的には、どちらの見方をする義務もないのですが、「勝負に勝ち、さらに抜け目なくマルコを向かわせていた斑目貘」と、「勝負に勝った者を自分の立場のために消そうとする天真」の2人を鑑みて、斑目貘の金を守っても中立の立場は壊れないと考えたのです。

天真は、自身の立場が不利であると思ったのか、負けを認めてその場を去ろうとします。
斑目貘は、そんな天真に対し、賭郎勝負を持ちかけました。
この交渉にどんな意図があるかわかりませんが、雪井出の敵討ちの意味も少なからず含まれていたのではないかと感じました。これは想像でしかありませんが…。
しかし天真は、すぐに答えを出そうとしません。
むしろ、君は優秀だから自分の仕事を引き継がないか?なんて提案をしてきます。
そして、そんな提案の意図が斑目貘にはわかっていました。
天真は、話を長引かせて、別の何かを狙っているというのです。
それが、梶くんの身柄拘束です。
梶くんは伽羅とカールと共に、とあるビルに身を隠していましたが、天真はその居所を割り出し、梶くんたちを捕まえて自分が優位になるための武器を手に入れようとしていたのです。

しかし、ここで梶くんのファインプレーが光ります。
梶くんの居場所は、梶くんが女性に腕を引っかかれた場所に栗栖がつけてくれた絆創膏によって判明します。
その絆創膏には、小型のGPSがついていました。
梶くんはそれに気が付き、天真の勢力に捕らえられる前に絆創膏を捨てて逃げていたのです。
しかも、しっかりめの推理をしたうえでの判断です。
やっぱり梶くん成長してるじゃん!普通にかっこいいです。
しかし、伽羅は梶くんのドヤ顔が気に入らなかったのか、「死ね負け犬」「キモいんだよ」と暴力をふるっていました。
これにより、天真の計画は頓挫してしまいました。
天真は、斑目貘の提案にのり、賭郎勝負をすることとなります。

ゲーム内容は迷宮です。
しかし、雪井出とやったものと同じではありません。
門倉からの提案がありました。
なんと、警視庁の建物の地下には6×6のマス目状になっている本物の迷宮が存在しているそうです。
雪井出とは机の上で戦った迷宮のゲームですが、今度は自分たちの体を使ってゲームを行うみたいです。
この回も面白かった記憶があります。

最後にもう一つ、クレイグがここでも登場します。
クレイグとは、米国の犯罪組織アイデアルのメンバーです。
彼は天真と面識がありました。面識があったというか、天真の元からある物を盗んでいたのです。
それが「Lファイル」というもの。
これが何なのかはこの後明かされていくと思います。
クレイグは、箕輪と戦うことを避けるために、奪ったLファイル(USBメモリ)を返却し、その場を離れることにしました。
そしてその後、ずっと探していたカールを発見し、カールと共に逃亡している伽羅や梶くんを追跡して、殺しに来るのです。

これで10巻は終了しました。
雪井出がまたこれ悲しいキャラクターでした。
彼は父親に思考を洗脳されていましたし、それを警察の上層部に都合よく利用されてしまっていました。
天真に蹴り捨てられる姿を見て、さすがに悲しくなりました。
雪井出は、やっていることは最悪でしたが、彼の中で正しいと思っていることを一生懸命頑張っているだけの青年でした。
生まれる家が違ったら幸せに暮らせたんだろうかと考えてしまいました。

続いて、マルコについて。
ヒーローは遅れてやってくるとはまさにこのことです。
もう、マルコが来てくれた時の安心感が半端ありません。
彼に関しては、裏切られる心配が全くないし、戦わなくても、その場にいるだけで周囲への牽制にもなる存在です。激強です。
また、マルコは、斑目貘を悪者と言った箕輪に対して、
「…貘兄ちゃんが悪者?ひ…人は自分を映す鏡…だから…貘兄ちゃんが悪者に見えるのは…自分が悪者!そう言ってるのと同じ!!」
と言い放っています。
一見良いこと言ってそうですが、箕輪に「鏡に映した俺が悪者だったら貘兄ちゃんも悪者だし、俺を悪者と言ったマルコ自身も悪者だ」と正論を返されてかなり動揺していました。
しかも、「貘兄ちゃんも悪者の部類…でも、悪者にも色々あって…」と、箕輪の発言を肯定までしちゃってます。
チョロくてかわいい。ずっとそのままでいてほしい。

マルコの言った、「人は自分を映す鏡」は論破されていましたが、この言葉ってものすごく難しいと思います。
よく、「人のふり見てわがふり直せ」的な意味で使われる方がいますが、本当にそういう意味なのだろうかと考えることがあります。
もちろん、そういう意味を含んでいないわけではないとも思います。
「人は自分を映す鏡」というのは、「相手に対して何かしらの意見を持っている、今の自分自身を見ろ」ということだと個人的に思っています。
高校生時代、その時はギリギリいた数少ない友達と喧嘩したことがありました。当時、それに気づいてくれた現代文の先生から、「人を変えることはできないから、自分を変えなさい」と言われました。
友達の意見を冷静に聞きもしないで、頭の中で一方的に「あいつが悪い!」と決めつけていた自分を振り返って、私ってなんて幼いんだろう…と考えたことがありました。
その後は、話し合ってお互いに謝って仲直りできました。
今となっては、何で喧嘩したのかも覚えていません。
良い社会勉強になりました。現代文の先生、ありがとうございました。

…つまり何が言いたいかというと、マルコは箕輪に対して、「貘兄ちゃんのこと悪者とか偉そうに言ってるけど、そういう自分はどうなんだ?自分がそんな立派なこと言えるほどすごい人間かちゃんと考えろよ」と言いたかったのではないでしょうか?
勝手な想像でしかありません。

あと、久しぶりに鮫丸と孫六が登場しました。会いたかったよ!
完全にクレイグを引き立てるためだけの役割でしたが、元気そうな顔が見られてよかったです。なんか、お母さんみたいな気持ちです。

早くも嘘喰い10巻まで読み終わりました。
登場人物たちの表情が細かく描き込まれているので、毎ページじっくり眺めて読んでいます。
次回も楽しみです。

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