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2.7.マンドラゴラ: 収穫・駆除方法

7. 収穫・駆除方法


 西洋でマンドラゴラの伝統的な収穫方法といえば、犬を使ってそれを引き抜くというものである。


 マンドラゴラの断末魔を聞くことなく、それを手に入れるために、まずよく慣れた犬を用意する。主根と葉の間を犬とロープなどでつなぎ、人間は遠くに避難する(この時、一応耳を塞いでおく)。餌などで気を引いて犬を走らせると、マンドラゴラが引き抜かせることができる。犬は断末魔を至近距離で聞くため、死亡する。


 しかし、実際にこの方法を用いるには、様々な問題がある。まず、かなり大型の力の強い犬でなければ、マンドラゴラを引き抜くことはできない。マンドラゴラは大きさの割に根が多く、ひょうたん型をしているため、採集にはかなりの力が必要となるのである。また、ほぼ垂直に引き抜かないと頭根が折れて使い物にならなくなる。内部の液体が漏れ出たマンドラゴラからは、十分な化学物資や有害物質を、抽出することができなくなるからだ。これらのことから、犬を使う方法は、少なくとも専門家が使っていた収穫方法ではないとわかっている(22) 。


 現在でも使われる、土を付けたまま掘り出すという方法が、古くから伝わる、最も安全性の高い収穫法と言われている。マンドラゴラは人型の胸部に当たる部分に生命線となる重要な側根を生やす。その部分に土を残して掘り起こせば断末魔を上げることはないが、その見極めは難しく、また他の根もできるだけ傷つけないようにしなければならないため、作業は慎重に行わなければならない。中世では大量のマンドラゴラを収穫するために、罪人を利用したこともある(23) 。うまく根を掘り出すことができれば恩赦を受けられるが、実際にはどんなに上手く事を運んだとしても、多少の音は漏れてしまうため、囚人たちは健康を害したり、発狂・死亡したりするなどして、自由になれるものは少なかった。


 現在、帰化している外来種の多くは、発する音が小さく、毒性も弱いと言われている。このため、全体を土ごと掘り起こし、完全に乾燥するまで隔離するというのが、専門家以外に推奨される収穫方法である(24) 。集合住宅に在住する場合は隔離するスペースを確保しにくいこともあり、安全のためマンドラゴラを回収する市役所もある。


 マンドラゴラを単純に駆除するならば、除草剤を使うことも可能である。通常の除草剤では駆除できない可能性が高いが、それによって周囲の植物を除外することで、栄養失調状態に陥れることができる。農業に従事していれば、気が付かずには畑の雑草と勘違いして、掘り起こしてしまうこともままある。しかし、個体と耕耘機のサイズによっては、人体に大きな影響を与えることはない、というのが農林水産省の見解であり、まず耕起の前に農地を確かめることが前提となる。これは農業従事者にとって多大なタイムロスとなり、農作物の収穫量に影響を与えることが危惧されている。


22)これはむしろ、素人がマンドラゴラを不用意に手に入れないよう、意図的に伝えられたデマであると推測される。全身がつながっていないマンドラゴラは商品として価値がないので、市場における専門家の経済的利益を守ることができる。また、例え知識のないものがそれを使用したとしても、有害物質が少なければ致死する可能性が少なくなることも、理由の一つと考えられている。


23)当初は重罪人の耳をつぶし、マンドラゴラを引き抜かせる方法をとっていたが、マンドラゴラの断末魔を実際に「聞く」ことは必ずしも重要ではなく、耳に届けば脳に影響を与えるため、この方法はやがて廃止された。


24)上部を少し掘り出して頭根の直径を確認し、そこから10センチ程外側を掘り起こして、マンドラゴラを土ごと袋に密封する。生活圏から少なくとも5メートル離れた場所に隔離(段ボール箱に入れれば、さらに防音効果を高めることができる)し、サイズによって二か月から半年乾燥させる、というもの。

読んでくださってありがとうございました。少しでも楽しんで頂けたらうれしいです。