【負けヒロイン】2024年冬アニメ失恋シーンまとめ【当て馬】
四月を過ぎて五月になりました。
もう桜の季節=失恋の季節も遠のいて、少し夏が顔を見せ始めています。
そんな新生活への期待に胸を膨らませるような時期においても、自分は失われた恋の物語ばかりを覆求めています。
さて、そんなわけで遅くなってしまいましたが、2024年の冬アニメから別れの季節にふさわしい失恋シーンたちを振り返っていきます。
冬アニメでは2つ、数こそ少なめなものの、それでも極めて濃い失恋を浴びることができました。
なので、ひとつひとつをじっくりと語っていけたらと思っています。
自分なりにアンテナは広く張っているつもりですが、それでもすべてを網羅できているわけではありません。
「これを見逃しているぞ!」という情報があれば、是非ともタレコミお願いします。
ではいきましょう。
『ゆびさきと恋々』10話より芦沖桜志
『ゆびさきと恋々』は森下Suu氏がデザートで連載している少女漫画を原作とした作品です。
耳の聞こえない大学生・糸瀬雪と海外経験豊かな波岐逸臣を中心とした甘酸っぱい恋模様を描いていきます。
この作品は、雪と逸臣の恋に何も障害もない両想い見守り型の作品です。
このタイプの作品は男性向け女性向け問わず増えていますが、この逸臣という男は欠点らしい欠点もなく、一途に雪を愛してくれるスパダリ系。
雪は自分の知らない広い世界を見せてくれる逸臣に惹かれていき、基本はメモや読唇で会話しつつも、逸臣は手話を学びながら雪の世界に歩み寄っていきます。
何か特別なトラウマや障害があるわけではなく、ただ惹かれ合った二人の男女の交流を描いていく作品です。
そんな完全無欠の恋愛に放り込まれるのが芦沖桜志という男です。
芦沖桜志は雪の近所に住んでいる幼馴染。
手話を習得しており、雪の大学生活をサポートしている一方で、すぐに「バカ」だの「アホ」だの手話で悪態をついてしまうという、なかなか素直になれない青年です。
そもそも、雪一人のために年頃の男の子が手話を習得してる時点で、特別な感情がないわけがないのですが、上記の通り感情表現が不器用すぎて雪には優しいけどいじわるな男の子として認識されています。
幼馴染は負けやすいなどという迷信もありますが、今でも少女漫画では素直になれない幼馴染は人気のヒーローポジションです。
むしろ逸臣のような献身的に尽くしてくれる年上のイケメンの方が当て馬になりやすい気がしますが、この作品はその逆です。
雪が桜志のことを異性として全く認識していないのが切ないところ。
どんどんと逸臣に惹かれていく雪に対して「あんな男やめておけ」と悪態をつきますが、かといって「俺にしとけよ」と言えるわけでもありません。
もっとはっきりと好意を自覚していればそう言えたかもしれないのですが、桜志は敢えて言わないことに拘っていました。
素直になれない幼馴染が新しい出会いの前に霞んでいくのはまあよくある負けパターンではあるのですが、逸臣の愛情表現がストレートすぎるのと二人の進展が順調すぎるので、ぐんぐんと置いていかれます。
桜志が雪との関係に悩んで二周三周同じところを回っている間に、逸臣は二歩も三歩も先に進んでいく。
メインと当て馬の立場が逆転すると、ここまで為す術なくなるものかと感心してしまいます。
雪が逸臣に惹かれるのにドラマチックな理由がないのと同様、雪が桜志を選ばない特別な理由もありません。
桜志は雪の世界を守ってきた。
逸臣は雪の世界を広げてくれる。
どちらがよいというわけではないのですが、雪が惹かれたのは後者の方だった。
ただ、逸臣の世界に雪は身を置きたいと願ったのです。
身も蓋もない言い方をすればシンプルに脈がないわけですが、その事実に気付けないのもツンデレの功罪というべきか。
こういう片想いの形が一番残酷ではありますが、ある意味リアルではあります。
突如現れた知らない男に為す術もなく、やがて桜志は雪と逸臣が交際を始めたことを知ります。
その事実をどう受け止めていいかわからずにモヤモヤとした想いを抱えていたある日、大学で逸臣本人とエンカウントします。
ほとんど面識のない二人でしたが、人たらしの逸臣のペースに乗せられて桜志は彼の行きつけのバーで二人で飲むことに。
軽く酔っていく頭の中で、桜志は雪との想い出を回想します。
最初は近所に引っ越してきたろう学校に通う女の子でしかありませんでした。
ですが、夏祭りの日に姉の見よう見まねで覚えた手話で会話を試みると、雪は返事をしてくれました。
誰にもわからない二人だけの会話。
花火の喧騒の中訪れた二人だけの静寂の世界に、桜志はすっかり魅せられてしまいました。
そこですぐさま「アホ」と言ってしまうあたりが最高に桜志なのですが。
そこで彼は認識します。
なぜ、逸臣の存在にイラついていたのか。
果たしてそれは恋なのか。
そんな安易な言葉にカテゴライズされたくないと桜志は思います。
だから、「俺も雪が好きだった」なんて言葉を口にすることはできません。
そうして逸臣に対して出てきた言葉が「雪と別れろ」です。
「付き合ってるやつから奪うとか好きじゃねぇんだ」という9割告白しているかのような啖呵まで切ります。
それでも、最後の一言だけは言うことはできない。
その不器用さもまた桜志らしさなのだと思います。
友達以上恋人未満という言葉があります。
友達であっても恋人であってもいけない。
2人の関係は、言葉にすると意味が変わってしまうような、そんな絶妙なバランスにより成り立つ関係です。
そして、桜志はその距離感こそに居場所を感じていました。
答えを出さないまま、大人になっていけるとどこかで夢想していたのでしょう。
でも、2人は成長し、新たな出会いを通じて変化していきます。
いつまでも同じようにはいられません。
そもそも、相手が同じように感じているとは限らないのです。
結局、言葉にして固定しなければそこにあるものは霧となって消えてしまう。
ある意味、"言葉"を大切にするこの作品ならではの結末といえるのかもしれません。
もうひとつ。
高校時代から逸臣に恋してきたエマという女性が登場するのですが、そちらも大変魅力的となっています。
めげずに好きをアピールしまくっている中、雪の登場で折れそうな気持ちを奮い立たせていく姿がとても素敵なザ・負けヒロインと呼べるようなキャラクターです。
そんな彼女ですが、最終話にて同じく高校の同級生でエマに片想いをしてきた心から、逸臣に彼女ができたことを告げられ、唐突に終わりを告げます。
(心がエマにこの事実を告げるかどうかでひとしきり悩んでいるのですが)
半ば終わっているとわかっていたからこそ、エマのリアクションは簡素なものでしたが、それを受け入れられるかは別の話。
エマは失恋の傷に痛み、悩みながらも告白してくれた心と向き合っていくことになるのですが、それはまた別の話。
『弱キャラ友崎くん 2nd STAGE』13話より七海みなみ
屋久ユウキ氏によるライトノベルのアニメ化作品。
2021年に1stシーズンが放送され、この度放送されたのはその続きとなります。
「現実はクソゲー」と逃避していたゲーマーの主人公友崎文也が才色兼備のクラスの中心的存在日南葵と出会い、彼女の指南を受けながら現実というゲームを攻略してリア充を目指すという物語。
ゲームの感覚で現実の人間関係を紐解いていく、その論理的な切り口と攻略プロセスが面白い作品です。
七海みなみはクラスのムードメーカーで葵と同じ陸上部に所属する女の子。
名前にみが3つ含まれていることからみみみというあだ名で親しまれています。
長いポニーテールと指をクルクルする仕草がトレードマーク。
明るいコメディ要員であった彼女が本格的に友崎と関わり始めるのは生徒会選挙のとき。
パーフェクトウーマンである日南の陰に隠れ、常に2番手だった彼女は、日南に勝ちたいという焦りから生徒会長選挙に立候補します。
そこで、友崎は「ブレーン」として彼女の選挙戦に協力することとなります。
それ以降、彼女は友崎のことを大切な親友の一人として友情の証であるストラップを渡し、ブレーンという独自のあだ名で呼ぶようになります。
2人の距離が急速に接近していくのは2nd STAGEの文化祭編から。
日南からのリア充課題として「付き合いたいと思う相手を決める」という課題を出された友崎は、自身の周囲にいる女子を改めて見つめていくことになります。
そうして候補に挙がったのが読書好きで内気な少女菊地風香と、ムードメーカーの七海みなみ。
風香とは演劇の脚本、みなみとは二人での漫才という形でそれぞれ文化祭に関わっていくこととなります。
その中で、友崎はみなみが自分に好意を持っている可能性に気付きます。
ですが、友崎くんは自己評価の低さからそれが好意であることを正面から受け止めることができませんでした。
そうやって後ろ向きでいると、みなみは友崎に「恋愛的な意味で好きだ」と告白してきます。
自身が一番になれずに悩んでいた時、親友である花火が孤立していた時に独自のアプローチで奔走した友崎の姿に恋い憧れたのでした。
そんなみなみの告白を受けて、友崎は二人でいることの楽しさを感じつつも「一人を選ぶということの意味」について考え始めます。
そしてみみみと一緒にいることは楽しいと思いつつも、それは友達と何が違うのかということも同時に思ってしまうのです。
そんな中、友崎は風香と演劇の台本作成を進めていきます。
風花の作った脚本は友崎・風香・葵をそれぞれをイメージしたキャラクターが登場する見立て創作でした。
自分を変えて世界の広がった友崎を見立てたリブラ。そして完全であり眩しい存在である葵を見立てたアルシア。そして、自分を変えたいと願う風香を見立てたクリス。
それぞれの立場や考えていることを、風香は彼女なりの視点で物語に落とし込んでいきます。
そして、外の世界に出ることを恐れていたクリスはリブラに勇気をもらって外の世界に羽ばたいていくのです。
この台本を作成している時間。
2人で日南葵という存在に迫っている時間。
それは友崎にとってかけがえのない時間でした。
そして、みなみは2人の様子からそのことに気付いていました。
文化祭当日、友崎との漫才を終えたみなみは、舞台へと向かう友崎の背中を見ながら「終わっちゃったなあ」と呟きます。
その見送る後ろ姿がなんとも切ない。
一方、舞台では風香の演劇がピークを迎えていました。
風香は友崎に無断で結末の展開を変更します。
リブラとアルシアが結ばれ、クリスはそれを祝福して一人旅立っていきました。
それは、友崎は葵と結ばれるべきで、風香と一緒にいるべきではないというメッセージとなります。
事実上の風香からの拒絶でした。
フラれた事実にショックを受け、一人家に帰ろうとする友崎。
彼を呼び止めたのは、他でもないみなみでした。
「菊地さんは図書室にいる」と友崎の後押しをするみなみ。
そう言って涙を溜めながら友崎を風香のもとへ送り出します。
ここで送り出さなければ自分にもチャンスはあるわけですが、彼女はあえてそれをしませんでした。
そのような逆境に最後まで"攻略"を諦めない姿勢こそ、みなみが好きになった友崎だったから。
好きな人がそれらしくいるということは、自分以外の人と結ばれるということ。
負けヒロインがメインヒロインへの道を後押しするというのは王道の展開です。
友崎は風香のもとへ行って語り合います。
空っぽの存在である理想を体現し続ける日南葵を捕まえることができるのは、感情のままに現実から逃げてきたけれど、いま理想に向かって突き進んでいる友崎のみで、その二人が結ばれるべきだと風香は語ります。
そこに自分の居場所はないと自虐する風香ですが、友崎の解釈は異なりました。
友崎は感情から理想へと向かう存在で、風香は理想の世界から感情を欲している存在。
理想と感情を両方欲している者同士補い合えると友崎は語ります。
そして、2人で歩んでいこうと風香の手を取り――2人は結ばれることとなるのです。
『弱キャラ友崎くん』という作品、友崎くんがリア充という理想を目指して頑張るというのが、表向きのテーマですが、もう一つのテーマとして理想を体現しつつもどこか危うい日南葵という存在――この作品風に言うとラスボスを乗り越えることにあります。
友崎は基本的には日南の方針には乗っているのですが、過剰なまでに勝利に拘り、時に自身の理想のために残酷な選択もする日南とは、根本のところで相容れない考えを持っています。
2人の違いを示すキーワードがまさに感情なのです。
友崎はゲーマーとしての側面もありますが、それ以上に情に厚い男です。
むしろ、感情に対して正面から向き合いすぎてしまうからこそ、人付き合いを避けていた側面まであります。
その友崎の"感情"を客観的に見つめて大切にしてくれる菊地風香という存在は、日南葵を乗り越えるためのピースとなります。
つまり、日南葵がラスボス――メインヒロインである限り、友崎は風香と共に歩むのです。
たとえ、最終的にどちらを選ぶとしても。
七海みなみという親友は、友崎が理想に向かう過程で手に入れた友人関係の一人です。
彼女と過ごすことを友人のように楽しい時間なのですが、そこに留まるということは日南葵の世界観に屈するということでもあります。
彼の心の中に日南葵がいる以上、みみみの想いに応えることはできませんでした。
でも、これはあくまで友崎文也の視点の話。
みなみは選挙戦で日南と対立しつつも、泥臭く正解を求め続ける友崎の姿に惹かれています。
つまり、日南の思い描く効率厨としてスマートに活躍する友崎ではなく、感情剥き出しのゲーマー友崎の姿を発見して好きになっているのです。
みなみは友崎を「かっこいい時とかっこ悪い時がある」と評しています。
このかっこ悪い時というのは日南の課題を突破するためにナンパなど慣れないことに挑戦する友崎で、かっこいい時というのは友達を助けるために最後まで粘って奔走する友崎です。
みなみは決して風香に劣ることなく、友崎の本質を見据えていました。
それでも彼女の想いが報われなかったポイントは、もちろん彼女の想いが十分に伝わっていなかった――彼女のテレが覆い隠してしまった部分もあるのですが――彼女自身が日南葵に臆していた面も大きいでしょう。
みなみは友崎や花火の協力もあって、理想ではない自分の姿を認めてあげられるようになりました。
それは、理想の姿を追い求めるのではなく、自分の感情的な部分を大切にするということ。
でも、友崎の心に日南葵がいる以上、一度は理想にリーチして乗り越えなければならないのです。
友崎がみなみと歩んだ場合、それは日南葵を諦めるということを意味します。
それぞれの感情を肯定し理想と適切な距離を保ちながら幸せを手にする――そんな平凡で輝かしい未来もあったのかもしれません。
一般に物語の主人公は、何か大きなテーマを背負っています。
そして、様々な出来事を乗り越えて自分の中を殻を破り、欲していた何かを手に入れる――その手の先にメインヒロインがいるのです。
逆に言えば負けヒロインのルートを選ぶということは、何かを諦めるということ。
その誘惑は甘美であればあるほど、後ろ髪を引かれる蠱惑的な存在となります。
七海みなみという存在が見せてくれる仄かなバッドエンドは、間違いなく幸せであるがゆえに愛おしいと思うのです。
それにしても、この作品の登場人物は大変に理屈っぽい。
主人公がゲーマーだからというのもあるのですが、極めて理屈っぽく世界を構成し理解しようとします。
その際たる存在が菊地風香なわけですが、水沢や花火とはじめとした他のキャラクターたちも皆強固な理屈を持っています。
そんな中で、みみみの行動原理はいたって感情的でストレート。
それが一種の清涼剤となっています。
2nd STAGEのラスト、みなみは友崎に向かって今まで通り友達でいたいと言いつつも、「いつまでも好きでいると思うな、ブレーンのバーカ!」と叫びます。
裏を返せば、「今はブレーンのことを好きなままでいる」という宣言でもあるわけで、まだキープされといてやるというメッセージになります。
彼女なりのささやかな抵抗なわけですが、果たしてそれは友崎に伝わったのか。
たとえ1番になれなくても輝いていけるというのは、他ならぬ友崎がくれたメッセージでもあります。
でも、恋愛に関してはやっぱり1番でなければ意味がない。
どんな理屈があって理想の形で1番になることはできないとつきつけられようと、それでも1番を願ってしまうのもまた感情なのです。
そんなままならぬ理不尽に対して、「バーカ!」と素直な感情を叫べる作品でよかったなと、そう思うのです。
まとめ
さて、僅か2つではありますが、その分濃厚だった2つの失恋について語りました。
どちらの作品も原作から知っていて楽しみにしていたのですが、しっかり丁寧に映像化されていて改めて片想いの儚さ、そして美しさを再確認できました。
なお、負けヒロインという括りでいうとオリジナル作品であるSYNDUALITY Noirのシエルというキャラクターが大変面白い立ち位置にいたのですが、失恋というとまた少し違うので別の機会に紹介できればと思います。
それでは、またどこかで。
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