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【第1話】同棲解消|彼と過ごした2年9か月は、あまりにあっけない最後だった
やっと終わった。
ドアポストに鍵をコトリと入れて、家を出る。息苦しくて重たい空気から、ようやく解放されたのだ。
この2か月間ずっと、私たちは家庭内別居状態だった。挨拶すらまともに交わさず、顔も合わせず、同じ家に住みながら別々の生活を送っていた。
こんな張り詰めた空気の中で暮らす生活、二度としたくない。
駅まで徒歩10分の道のりをずんずんと進みながら、彼に対する嫌悪感と怒りと、やれやれやっと終わったわという解放感を味わっていた。
10月の鹿児島はまだまだ暑く、両手にいっぱいの引越し荷物を抱えながら、じんわりと汗がにじんでくるのを感じる。
駅についてすぐ、彼とのトーク履歴を開いてLINEを送る。
「2年9か月間ありがとうございました。さようなら」
仕事中の彼からは、なぜかすぐに返信が来た。既読をつけた瞬間にブロックして、トーク履歴と連絡先を削除する。
終わっちゃった。
ホームに電車が入り、無人駅に人が降りる。
新居に向かう電車に揺られながら、彼との2年9か月の時間を振り返っていた。
26歳で始めた婚活は、まったくうまくいかなくて。マッチングアプリも婚活パーティーも数えきれないくらい行って、いくらお金と時間をかけたかもわからないほどで。
こんなことするくらいなら、自分磨きにお金かけたほうがいいやって、結婚を半ば諦めていたときに出会ったのが彼だった。
初めて会ったときはまさか付き合うことになるなんて思っていなくて。でも、自分でもびっくりするくらい、あっという間に好きになっていた。
関東に住む私と、九州に住む彼。
一緒にいる時間はいつも一瞬で、空港でお別れするのが寂しくて胸が苦しくて。こんなに苦しい気持ちになるくらいなら、絶対に彼と一緒に住むと心に決めたのが、付き合って5か月後のことだった。
「1人の自由な時間が最高!」って思っていたはずなのに、それ以上に「大好きな人と一緒に暮らせる時間のほうがいい」って思わせてくれたのは、彼が初めてだった。
彼のことがたまらなく好きで、同棲して同じ空間に毎日いられるなんて夢みたい!って思っていたはずなのに。
この人と絶対に結婚するって思っていたのに。
どこですれ違ってしまったんだろう。何がいけなかったんだろう。
小さな違和感に気づいていれば、違和感を無視していなければ、彼とはずっと仲良しでいられたのかな。
最後の最後まで、顔を合わせることなく終わってしまうほど、あっけない関係だったのかな。
こうなる前に、もっと何かできなかったんだろうか。
家を出たときに抱えていた嫌悪感も怒りもあっという間にしぼんで、ただただ後悔と空虚な気持ちが同居するのだった。