感情の起伏でサーフィン
一昨日と昨日、博士と友達と、友達の友達の4人で甲賀市のとある夫婦の家に宿泊しに行った。初日は宿泊している家の土壁を作り、二日目は棚田ボランティアという名の美味しいご飯を食べるイベントに参加した。
初日の夜、4人で星を見に行った。空は曇り空。田舎の夜道は暗い。いつも酷使している目からの情報が閉ざされ、聴覚や嗅覚が敏感になる。
前回ここに滞在した時に、うっとりと眺めていた茅葺きの空き家や隣の神社の墓地からは、さらさらと草の擦れ合う音と、川を流れる水の音が聞こえる。風が少し冷たい。今にも貞子が襲ってきそうである。4人が呑気そうに、「星見えへんなぁ」と喋ってるのを横目に、私は墓地に背を向けた時、自分が1番後ろにならないことを意識するのに気持ちの大半を割いていた。
その後、4人のうちの1人が、「カブトムシの里」に行こうと言い出した。冗談ではない。「カブトムシの里」は、街頭ひとつない、獣害よけの柵に閉ざされた棚田の道を登った最果てにあるのだ。そんなとこまで行ったら、絶対柵の中に忍び込んだ鹿にツノで刺されて死んじゃう。
しかし、ここで引き返すわけにもいかず、みんなと一緒にカブトムシの里まで行った。
カブトムシの里は、案の定真っ暗で、鳥がバサバサっと飛び立つ音だけが響いていた。ふと空を見上げると、少し雲が晴れて、チラチラと星が輝き始めている。一人がオリオン座を教えてくれた。そして、道路の真ん中に4人で寝転んで、どうでもいい話をした。
20分くらい寝転んでいた気がする。少し寒くなってきたので、帰ることにした。今度はふたご座流星群を見に行こうと約束した。私たちの上だけ雲が晴れてるね。と言い合いながら帰った。
帰って、あったかいお茶を飲みながら、またいろんな話をした。どこにでもあるようで、きっとここでしか、この4人でしか話すことのできない、親の愚痴。深刻なようで、でもなぜか笑いが絶えなかった。あるタイミングで、坂口恭平が糸井さんとの対談で、親をケアの対象として認識していたというのを友達が紹介してくれた。その途端、なぜか私は馬鹿みたいに泣き出して、自分と坂口恭平が少し重なることや、今住んでいる家は私にとって絶対的な安心領域であること、その家を形作っている博士は私にとってパートナー以上の何かであることを、切れ切れに話した。自分でも、そこまで思い詰めていたんだなぁと、泣きながら饒舌に語る自分に驚いた。
次の日の午後、空き家の見学に行った。そこで、博士が電子ピアノを持って帰ると言い出した。私は昨日あんだけ博士をこれ以上ない存在のように語っておいて、結構本気でブチギレた。なんで私に一度確認を入れなかったのか、こんな重いものどうやって持って帰るのか、家のどこにこのでかいピアノを置くのか、そんなことを考えずに貰うことを即決してしまった博士が許せなかった。みんながその重いピアノを運ぶために軽トラや地域の人が集まって動いている中、私はムッスリして、何も協力しなかった。まるで拗ねた子供のようだと思った。
帰りの車では、友達が寝不足の中わざわざ遠回りして私たちを南草津駅まで車で送ってくれているのに、1人よだれを垂らして寝た。気がついたら南草津駅に到着していて、寝ぼけたまま、お礼を言って車を降りた。
恐怖や悲しみ、怒りや眠気が、自分にコントロールできないほどの質量と勢いで押し寄せてくる。その度に私は、情けない自分にぐったりしながらも、いろんな人の優しさに支えられて、生きているんだということを、凝縮して教えてもらったような二日間だった。子どものようだというのは、子どもに失礼かも知れないが、でも、こんなに安心して、大人らしく振る舞うのをやめることができるのは、幸せなことだと思う。
以下追記
今日(1107)軽トラックをレンタルして博士と電子ピアノを受け取りに行った。ペーパードライバー2人が狭い京都の道を走るのは本当にハラハラしたが、無事搬入まで終わった。
お世話になりっぱなしの例のご夫婦は、今日も温かい紅茶に始まり、地域の移住者を紹介してもらった後、美味しいお土産まで持たせてもらい、送り出してもらった。
何かお土産を持っていくべきだったと後悔したが、きっとまた遊びに行くだろうから、その時にたくさん働こうと思った。(前回私たちが作った土壁は乾燥して、砂漠のように亀裂がバキバキと入っていた。もう一度上塗りが必要である。)
博士は、前回の私のブチギレを見て、レンタカーの手配など、ほとんどの段取りをしてくれた。最初はむくれていた私も結局、楽しんで1日を過ごした。私も博士の素直さを見習いたい。
先週末は私の友人2人が泊まりに来てくれて、みんなでlove languageの話をした。その中で、私は結構フィジカルタッチとか、ソフトかハードかでいうと、ハードで愛を感じるタイプかもしれないと思った。
この電子ピアノを見るたびに、友人たちとの思い出や博士とのドキドキ軽トラ旅のこと、甲賀市という土地のことを思い出すことになるんだろうなと思うと、愛おしさがこみ上げる。
「愛」がテーマの、サティシュクマールの講演会で、好きな人が複数いるので困っているという、何ともかわいらしい男の子の相談があった。その相談に対してサティシュが、「1人の人間を愛することを通して、世界を愛することができるんだよ」「例えば、あなたは今京都に住んでいるよね。他の都市に魅力を感じたとしても、同時に東京やニューヨークやロンドンに住むことはできない。移り住むことはできるけど。それと一緒で、フィジカルな関係をもてるのは、ひとつだけなんだと思う」と言っていたのが妙に印象的だった。
今日から急に寒くなって、コタツから出られない。いよいよ冬がやってくる。今年の冬はどんな冬になるんだろうか。
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