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絶望しかけている人がいたら、可能性を持ってこい。

われわれ一羽一羽が、
まさしく偉大なカモメの思想であり、
自由という無限の思想なのだ。
(本文より抜粋)

自己啓発書の名著として名高い本書、かもめのジョナサン。
この物語は、生きるための飛翔、つまり鳥という鳥類が持っている、
本能としての飛翔ではなく、
自らの意志で飛ぶということ自体を追求しているかもめが、
それを極めていく事の顛末を描いたpart1~3からなる物語だ。
コロナ禍で再評価された「大河の一滴」の著者、
若き日の五木寛之氏が翻訳したことでも有名。
数年前に、実はこの話には続きがありました!と、
part4が追加された完成版が出版されたことも記憶に新しい。
個人的には、私が小学生の時に読書感想文に選んだ本。
それから長らく読んでおらず、実に三十数年ぶりに再読した。

誰だってジョナサンみたいに、
自分の信じるものだけを信じて生きていけたら、
どんなにか自分の人生は素晴らしくなることを知っている。
でも、実際の殆どの人は何かのコミュニティに属し、
社会生活を営んでいる「ジョナサンじゃない方」
その他のかもめだ。
現代では一昔前よりはるかに個人が尊重されるとはいえ、
そこでは人間関係に煩わされることが多い。
「嫌われる勇気」の著者アルフレッドアドラーに、
悩みの9割は人間関係!と断言されるほど、確かにスムーズな人間関係維持は骨が折れる。
そんな時、溜息をつきながら思うんだ。

ああ、ジョナサンはいいなぁ。
自分もジョナサンみたいになれたらなぁ。

しかし、憧れだけならまだしも、
その他のかもめを否定されているような気持ちになる人もいて、
劣等感と向き合うことになる。
その他のかもめが多ければ、当然そういった感想を持つ者ばかりになり、
それだからこそこの本は、原著刊行から半世紀経っても名著として存在する。
私たちが皆ジョナサンだったら必要ないもの。

幼い私も例にもれずそう思って憧れたが、この本は実は、
自分の可能性を信じることの大切さを説く本ではないかと、再読して思っている。

只今の自分で判断すると、新しい事や難しい事はできるわけがない。
だってやったことないし、自分の力量以上のものかもしれないから。
でも、出来る確率はいつだってどんなことだって、絶対的不可能であるゼロではない。
けれどその他のかもめは思う。
どうせできっこない、無駄なことだよと、やらないまっとうな理由を探してきては、自分の中にある可能性を信じようとしない。
ジョナサンはそんな大勢の中にあって、
ただ一人、自分の可能性を信じてひたすら飛ぶ日々だが、
当然最初からうまくなんかいかない。
その時、ジョナサンは、だからできない。だから無駄なんだ。
とは1ミリだって思わない。
どうやればうまくいくのかと試行錯誤を繰り返すだけ。
やがてその強い想いに、自分の可能性がYESと言うのだ。

また、ジョナサンが可能性を追求する日々には、他の誰も登場しない。
彼ただ一羽だけだ。
戦っているのは自分とであって他のかもめとではない。
だから、自分の可能性を信じ、努力を続ける人は強い。
本当の意味での孤独を知っている。
どんなに羨んでも、他の人になんてなれない。
だったら、誰かと比べて落ち込むなんておかしい。
私は私、あなたはあなただ。
それに、自分がそう思うように、
他の人からしたら、自分だってジョナサンなのかもしれない。
そんな風に、広い視野で自分と周りを眺めることが少しはできるようになったのかなと思う。
それこそ、空高く舞うかもめの眼差しのような。
あの時彼に憧れた少女だった私は、ジョナサンに近づけているだろうか。

一人の少女が読んだ1冊の本。
少女は色んなことを経験して大人になる。
本はその間、多くの人に読まれながら変わらず存在し、少女の代わりに初めて出会った時の想い出と、再び出会うまでの長い人生の道程とを連れて、また出会う時を静かに待っている。
どうにもひどく懐かしいのだけれど、あの時とは全く違う顔をして。

四苦八苦して、落ち込んで悔しくて、要領よく上手になんてできなくて
でもあの時は本当に楽しくて幸せだった。
心の底から笑い転げたこともあった。
たくさんの人に出会って、たくさんの人がいなくなった。
色んなことがあった自分の人生を、自分の生きてきたこれまでの道程を
本は否定しない。

だから読書はやめられない。
こんなに素晴らしい再会が待っているんだもの。

不器用で優しい、全てのその他のかもめたちへ。
名著であるのには理由がある。
おすすめです。

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