興味を奪うデザイナー。
実はこの記事を以前UPしていたんですが、僕の手ちがいで消してしまいました…。たくさんシェアされて600スキ以上いってたのに…。ただいま絶賛バズり中の「それは、デザイン案ではない。」という記事の勢いのっかり、再掲載しました。ちょっとだけ、加筆修正してます。
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情報とネタが溢れすぎている現代は、“可処分時間を奪い合う戦国時代”と言われている。さらに加えて、“デザインの質のコモディティ化”が進んでいる。2年前、編集者の箕輪厚介(幻冬舎)と出会って、彼がやっていることは僕たちデザイナーがやるべき最重要事項だと確信した。
興味を奪い、脳に働きかけるデザイナーになれ。
僕はアートディレクター・グラフィックデザイナーとして企業や店舗、商品のブランディングに関わっている。「誰のためのサービスか? どうありたいか? この先どうなりたいか?」の志をヒアリングし、伝わるようにビジュアル化をするのが僕の仕事だ。アートディレクションとは「世界観構築とクオリティ管理」である。ロジックと感性を駆使して、確実に「効果」を生み出すグラフィックを作る。
ただ、今はそれだけでは足りない。それを補完するのが「興味を奪い、脳に働きかける。インタレスティング(interesting)」だ。
普通に良いデザインをしているだけでは、他とは差がつかない時代。僕が若かった頃(2000年代)に比べれば、総じてデザインのクオリティが上がっている。ユニクロ、イケア、100円ショップもそう。安かろうダサかろうの時代ではない。コモディティ化して、良いデザインが増加した証拠だと言える。そうなると、今は良いデザインってそこかしこに氾濫しているから、デザイナーは、良いデザインをするだけでは不十分なんじゃないか。そこで猛威を振るったのが「ブランディング」だ。
ブランディングっぽいブランディングが増えてしまった。
ブランディングは、「ブランディング」という言葉がビジネスで使われる以前からデザイン界では実践されていた。“ペプシマン”や“新潮文庫のYonda?”を手がけたアートディレクターの大貫卓也さんは「広告する」の広義の意味で、何十年も前から今でいう「ブランディング」をやっていた。「ブランディング」。この言葉は、概念操作に優れた言葉だ。この言葉が生まれたことにより、ブランディングは実践しやすく瞬く間に社会に浸透した。ある側面ではいいことなのだが、「ブランディング」を見て「ブランディング」をしてしまうという事態が起きてしまっている。
ブランディングとは、自分が所有している家畜に焼印を押し、他人のそれと間違わないように「識別する」ことに由来している。本来、他と差を生むためのものだったことが似たような見え方が氾濫してしまっている。今、見た目や雰囲気だけをマネをして、ロゴやビジュアルを作ってしまっている事態。
依頼された対象の内側にある核の部分を引き出し、一撃で伝わるビジュアルを作る。本質を捉えてデザインすれば、自ずと差別化できると僕は断言する。ただし、それは簡単なことではない。
※ここで話している「ブランディング」とは、ブランディングデザインのことを指します。
ブランディングの前にやるべきことがある。
編集者の箕輪厚介は、よくこんな話をしている。
昔の本は、いきなり書店に並んで偶然出合った人にいかに買っていただくかの戦いだったんですけど、今はもうそれは厳しいから、毎日触れさせることが大切です。それは試し読みでもそうだし、制作過程の公開もそうだし、一緒に作ることでもいい。毎日触れさせて徐々に心を奪い、できるだけ時間を使ってもらえるようにして、最後に財布を開かせる。
https://marketingnative.jp/sp02/ より引用
人の心を奪うことを「可処分精神」と呼ぶそうだ。デザインにも同じことが言える。繰り返しになるが、良いデザインは当たり前。良いデザインだからという理由だけで人を振り向かせるのは、今や無理ゲー。だからこそ、まずは興味を持たせる。デザインを毎日見せること。ブランディングより先に、人々の興味を奪い、脳に直接働きかけることが今は求められる。
ラフデザインを公開してしまうことのショック…。
箕輪厚介のオンラインサロン「箕輪編集室」に入った時、一番最初に衝撃を受けたのは、制作過程をどんどん出すこと。デザイン案を出したら、数秒後には箕輪さんがツイートしている。任天堂では絶対ありえないことだった。最初は、作りかけの中途半端なデザインを露出する恥ずかしさと不安で驚いたけれど、それは自意識過剰だった。誰もそんな細かいところまで見ていない。作ったデザイナーの僕のことなんて知らないし、ハッキリ言ってどうでもいい。もっと大事なことがあるんだなと、徐々に俯瞰して見れるようになった。
ブログ記事を用意するのは時間がかかるし、記事を読みに来てもらうのは能動的なアクションが必要だ。一方でTwitterは受動的に情報が入ってくるツールだがら、特にデザインと相性が良い。僕も作ったものは、即座にツイートするようにした。「アップデート主義」で、成長の過程をさらし興味を奪う。一番、効果的なのは「デザインで迷っています。A案とB案どっちがいいですか?」のツイート。一瞬でも考えさせたら大成功。「どっちがいい?」は脳の中に侵入しやすい。
コミュニティで、デザインの実況中継。
今年の7月、株式会社コルクからロゴデザインの制作依頼を受けた。漫画家や作家のインディーズレーベル「コルクインディーズ」を立ち上げるらしく、そのレーベルのロゴデザインだった。依頼自体は僕の会社で受けたものだけど、前田デザイン室のメンバーにも見てもらえたらいいなと考え、コルク代表の佐渡島さんから特別に許可をもらい、ロゴデザインの制作過程を前田デザイン室限定のFacebookグループで実況中継した。
ヒアリングからラフの制作。佐渡島さんから返ってきた意見をもとに追加案をデザインしたこと。その時、考えたこと。デザインの思考の流れ、僕が作ったロゴの提案書を含め、全てをサロン内で公開した。作っている途中に、サロンメンバーからコメントをもらった。僕にとっては励みと良い意味でプレッシャーになるし、前田デザイン室のクリエイターにとっては僕のデザインの制作過程を見ることで、デザインが学べる。さらには、この取り組みを見ていた前田デザイン室メンバーは、コルクインディーズのことを応援してくれるようになる。みんなが幸せになるループが生まれている。
脳に侵入するために、やれることはすべてやる。
ロゴの制作過程はもちろん、コルクインディーズのお披露目イベントの「レポート記事」を公開。NASUとしてのお仕事実績の「プレスリリース」も発信した。やれることは全てやった。この記事があることで、僕の周りの人がコルクインディーズや佐渡島さんのことを知るきっかけになるかもしれないし、何よりそれでコルクの皆さんや佐渡島さんに喜んでもらえるなら嬉しい。記事はかなりたくさん読んでもらえたので、第一段階としてコルクインディーズの存在感は行き届いたと確信している。
先に興味を奪い、そして脳に働きかける良いデザインを見てもらうって、つまりはこういうこと。良いデザインだけ頑張っても、なかなか差別化しにくい。かと言って発信やコミュニティで注目だけ集めても、中身が伴っていないと意味がない。良いデザインがあってこそ。
興味を奪う(発信、コミュニティなど)+ 脳に働きかける良いデザイン
僕がやっているのはこの繰り返し。僕以外に、ここまでやっているデザイナーは、ほぼいない。
ネットとコミュニティで最大化する稀有なデザイナー
クリエイターである僕が、デザイン以外で人より届ける努力をしているポイントがあるとすれば、インターネットの活用とオンラインサロンをやっているところだろう。正直、この点のみで僕を評価されるのは本意ではない。そもそも作っているものに自信を持っているから。ただ同じことをしていても、コモディティ化が進むクリエイティブ業界で存在を示すことはできない。ましてや、僕はメーカー出身で独立した年齢も38歳と遅い方。業界の慣行を倣っている時間はない。時代を読んで変化に対応し、できることはすべてやる。
今はインターネットとコミュニティーに力を入れている。でもこの先、何か他のものが登場すれば、僕は真っ先にそれを試して実践するだろう。自分の作るものを最大限に知ってもらえることはすべてやる。そうして興味を奪っていく。
さいごに
先日、あるデザイン系サービスに関するニュースを目にした。業界を代表するメンバーを呼び寄せた人選だった。そこに僕の名前はない。こういう時に僕も声がかかるような存在になりたい。
定期的に僕の記事を書いてもらっているライターの浜田さんに、この話をしたところ「前田さんは、今までになかったことをやっている。アートディレクター、デザイナー以外の活動をたくさんしているから、そこを伝えてはどうですか?」と言われた。
あぁ、たしかになぁと…。
既存の王道デザイナーの道はあきらめた。というか、新卒で任天堂を選んだ時点でちょっと違う筋のデザイナーを目指していたのかもしれない。デザイン界のいわゆる大御所、水野学さんは尊敬しているし、憧れの気持ちしかない。転職活動で、good design companyを受けたくらいだから。水野さんには到底かなわないけど、僕は僕ができることをやるしかない。
「巻き込み力」でデザインの力を最大化する。
デザインのみを突き詰めるだけでなく、デザインの力を最大限に発揮するためにやることをすべてやる。コミュニティやSNSを最大限楽しみ、「こんなことしたらおもしろいんじゃない?」という活動をインフルエンスさせ人の興味を奪い脳に侵入する。
デザインも巻き込むことも、行動すべてを最大化する(マキシマイジングMaximizing)デザイナーとしての道を突き進んでいこうと決意した。そういえば、大学の時なぜか自分で「MAX前田」って名乗っていたこともあったんだよなぁ。
というわけで、今なら自信を持って言える。
良いデザインに加えて、興味を奪うことのできるデザイナーが必要であると。
(追記)この記事を書いた後、コミュニティ事業をはじめた。今はコミュニティーを作るデザイナーとして、青山ブックセンター本店のコミュニティを作っている。コミュニティをやりますと言った途端、コミュニティの人として登壇が舞い込んだ。僕が着る日本代表のユニフォームは「コミュニティーデザイン」なのかもしれない。コミュニティーを最大限活用することで、より一層「興味を奪うデザイナー」になれる。
テキスト、編集:浜田綾
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