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粘る納豆作り ①・・・作る方はだいぶ粘りましたが肝心の納豆はなかなか粘りません

ネパールで納豆を作って遊んで暮らしている村田です。
(うそです。仕事も少しはしています。)

今日は僕の納豆作りの執念をあちこち大脱線を繰り返しながら綴っていきます。

これを読み終わる頃にはきっと皆さんも手作納豆など絶対に作りたく無くなること請け合いです。

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日本食は日本人の文化である!

自分の属する文化をお金で手に入れている人は果たして本当に日本人だと言えるのだろうか?

酒も醤油もみりんも味噌も全部買って済ませるだけの生活は、もはや「文化的」な生活だとは言い難いのではないだろうか・・・。

まして、その買ってくる食材が有害な添加物にまみれていたら「健康的」とも程遠い。

全てを自分で作ろうとは思わないが、全てを買う事で揃える暮らしが便利だとも思えない。

自分が本当に好きなものはひとつくらい自分で作れるようになる努力を忘れない事が重要だと思う。

実際に自分で作ってみると世の中の嘘が見えてくる。

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最新の自家製納豆(2022-09-15製造)

納豆をお店で買って食べている人は「納豆が粘るのは当たり前」だと思っている事だろう。

僕も日本に住んでいる時はそう固く信じていた。

しかし、どうもその考えは間違っていたようだ。

子供の頃から納豆は大好きだった。

僕が初めて納豆を作ったのは小学生の頃だ。

市販の納豆と茹でた大豆を混ぜてコタツに入れて実験をしたら変な匂いのする殆ど粘らない納豆が出来た。

家族揃って試食会を開いたのだが・・・
母曰く「あら、納豆って以外に簡単に出来るのね・・・。」

父 「・・・・・・」(心の叫び:下手に褒めたら毎日不味い納豆を食う羽目になるから黙っていよう)

というものだった。

確かに殆ど糸を引かず変な匂いで、再挑戦する勇気が全然湧かない味の納豆だった。

あの時こたつの中で屁をたれたのが原因かもしれない。

納豆好き少年はその後も毎朝納豆を食べ続け、人生を至る所で大回り空回りしながらもやがてネパールに流れ着いた。

ネパールに来て一番困った事は納豆が毎日食べられない事だった。

手に入るには入るのだが非常に高い。

日本から輸入された冷凍おかめ納豆一人前の小ぶりのパックふたつで当時600円程もした。

若かった頃2年間過ごしたモロッコには納豆は存在すらしていなかったので、それでもマシと言えばマシなのかも知れないが、なまじ手の届きそうな所に存在するのは正に生殺状態しで残酷ある。

話はちょっとそれるのだが、当時僕はネパールの水産試験場に勤務していてネパールの在来種スノートラウトの養殖実用化試験を行っていた。


ネパールのスノートラウト


当時はあちこちの河川に出かけて行ってはスノートラウトの採集や生態の観察を行いながら、試験場では飼育魚から採卵して種苗生産試験を行っていた。

だが・・・この魚、非常に成長が悪い。

美しいスノートラウトの受精卵

天然魚では大きなものは5kg程のものが川には泳いでいるのに、実際に飼育してみると当時の技術で1年で5g~10g、2年でも20g程にしか成長しなかった。

しかし、河川で採集してみると明らかに採取される個体に成長の分布が存在している。

つまり、同時期に採取される魚の魚体重をグラフにしてみるとその分布が、例えば①1g以下の群れ(今期産卵群)、②5g前後の群れ(前期の産卵群)、③50g前後の群れ(前前期の産卵群),④150g前後の群れ(前前前期の産卵群)というように明らかに異なる個体群に分別され、これらの中間のサイズの個体は殆ど存在しない。

これはどういうことかと言うと、スノートラウトの産卵が3月と10月である事から推測すると①の最も小さな群れが直近の産卵時期に生まれた群れ、②の群れがそれから半年前に生まれた群れ③が1年前に生まれた群れ、④が1年半前に生まれた群れ・・・というふうに考えられそうなのである。

だとすると自然界ではスノートラウトは1年半で150gに成長しているはず。

この推測が正しいとすると自然界での成長と養殖環境での成長に著しい違いが生じている事になり、何か技術的な問題が有るのではないかと言うのが僕の考えだった。

技術的問題と言えば飼育環境か餌、疾病が殆どであり、最も怪しいのが養殖試験で使用している餌であった(本当の原因は試験場を辞めて自分の養殖場を持つようになってから偶然分かったが今回は割愛する)。

と言うのも、河川で採集した魚を解剖して胃内容物を調べてみると、ほぼ100%河川の石に付着している珪藻、藍藻類が出てきていたからだ。

日本のアユもそうだが、縄張りをもったオスのアユはこの藻類を主食にしているせいで成長が良い事が知られている。

そんな仮説を立てた僕は藻類に豊富に含まれるタンパク質とカロチン系の色素を餌に補えばスノートラウトの成長が改善するのではないかと考えてみた。

藻類に含まれるカロチン系の色素はルテインと言い、ネパールでお祭りなどの際に飾り付けで大量に使われているマリーゴールドの花弁を使うことにした。

タンパク質としては植物性タンパク質の大豆だろう・・・という事で早速試して見たのだが・・・結果はイマイチであった。

そこで思いついたのが大豆を発酵させて納豆にしてみてはどうかという事だった。

と言うのもスノートラウトが主食としている岩の表面に付着した藻類は別の見方をするならバイオフィルム( https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0)でもあり様々な微生物を含んでいる。

もしかしたらこの魚はバイオフィルム食かもしれない・・・それなら納豆はどうだ・・・となった。

納豆は枯草菌(こそうきん)の1種で大豆を発酵させたものだが、アミノ酸ビタミン、酵素等が豊富に含まれている。

これはもう絶対良い結果が得られるに違いない!

早速例のおかめ納豆を買って来て与えてみると嗜好性が良い。

これはもしかしたら行けるかもしれないと思ったのだが、こんな高い物を毎日食べさせる訳にも行かない。

飼育試験を行い納豆を食わせた群れと通常の餌を食わせた群れで成長や生残率に差が出るかハッキリさせる為にはとんでもなく金がかかるし、そんな大量の納豆は売っていない。

どうにかして納豆を作れないだろうか?それも大量に・・・。

そこで思い出したのが子供の頃コタツで作った不味い納豆である。

ところが、当時のネパールは停電が非常に多く、僕の住んでいた場所では最低でも8時間、酷い時には数日間全く電気が来ない事もざらで、納豆作りの保温を電気に頼る事が出来なかった。

一体どうしたものかと考え込んでしまったのだが、良い考えが浮かんだ。

当時住んでいた試験場内の家に自作したドラム缶風呂は一度火を入れると8時間位はいい湯加減を保つことが出来たのである。

ドラム缶から納豆!・・・まるで瓢箪からコマでは無いか!!

早速試して見た・・・のだがやっぱり上手くいかない。

一体何がいけないのか?
種?
温度??
発酵時間???
コンタミネーション????
色々と条件を変えて試してみるもののどうしても上手くいかない。

種として稲わらなんかも試したがダメ。

そのうち魚の研究でネパールに来たのか納豆の研究で来たのか分からなくなって来たので結局挫折してしまった。

それから数年後、ネパールの山奥で自分の養殖場を持つようになり暮らし始めると、また納豆が食べたくなる。

当時は酷く貧乏で600円の納豆など1年に1度だって食える身分ではなかったから再び自分で作る方法を模索するしか無かった。

幸い原料の大豆はニジマスの餌の原料として大量に備蓄していた。

養殖場にもドラム缶風呂を作っていたので保温もバッチリだ。

そうは思ったものの、何の考えも無しに作ってもまた失敗するに決まっている。

何故今まで上手くいかなかったのかを考えて、原因と思われる物を一つ一つ潰して行くしかない。

そんな訳で僕の納豆作りは再開したのだが、やっぱり上手くいかない。

粘らないし、ボソボソだし、変な匂いがして時々腹が痛くなる。

作る度に酷く不味い出来損ないの納豆を大量に食い続ける羽目になり、その余りの不味さに耐えられなくなる。

当時は稲わらを干して粉末にした物を種として使っていたのだが、4年ほど前に母と妹がネパールに来た際に納豆菌を持ってきてもらった。

「やった!これで絶対上手くいくはずだ‼️」

そう思ったのもつかの間、稲わら粉末より幾らかマシで、腹を下さなくなった位の違いしかない。

その後も新しいアイデアが浮かぶ度に試してみたが、糸が何処までも伸びて箸が立つほどに粘り気のある美味い納豆は一度も出来る事はなかった。

3年程前の事ある日突然、僕の住んでいる山奥の養殖場でもデータ通信で4Gでネットに繋いでインターネットが出来るようになった。

そこで早速納豆の作り方を検索してみて分かったのだが、ホームメイド納豆で市販品のような粘り気を実現出来ている投稿がひとつも無いことに気付いてガッカリしてしまった。

きっと、市販品は何か特別な事をしているか、何かヤバい物を混ぜていてホームメイドでは決してああはならないのだ・・・。

そんな結論を出して完全に諦めてしまいそうなある日、我が目を疑うような事が起こった。

それは丁度1年程前の事である。
カトマンズの知り合いの奥さんが日本人で、その人からおっそわけのニジマスのお礼としょうして頂いた納豆が市販品以上に粘っていたのである!!

狂喜した僕は早速作り方を教えてもらおうと会いに行った。

もうこの際だから教えてくれなかったら誘拐して拷問にかけてでも納豆を粘らせる方法を白状させてやろうと手ぐすねを引いて行ったのだったが・・・
「普通に作ってるだけよ!」

「温度は?」
「さぁ、測ってないわ。」
「時間は?」
「適当に1日か2日くらい。欲しかったら100g100円で売ってあげる。」

と言った感じでデータを取っていないので、何を聞いても分からない。
でも、何故か販売量と値段だけはハッキリ分かった。

これでは誘拐して拷問にかけてでも有益な情報は出てこないと諦めて、すごすごと家に帰ってきたのだが実際に粘る納豆を目の当たりにしてしまったので興奮は冷めやらない。

再び納豆作りに燃え上がった僕はまた不味い出来損ないの納豆を食べ続けるのだが、それでも上手くいかなかった。

そうこうしているうちに季節は巡りニジマスの卵が孵化して餌を食べだす時期になる。

どんな魚でも稚魚の時が一番弱い。
ニジマスも病気が出る。
その度に抗生物質や寄生虫薬を投与するのだが、お金も掛かるし面白くない。
第一病気が出ればその間成長はほぼストップする。

数年前から結構使えるプロバイオティクス(魚に有益な細菌を培養して乾燥させたもので、水に溶かすとこれらの細菌が復活して魚の消化管や水槽内で増え魚を健康に保つ生菌製剤。今使っているものは500gで3,000円もする)を使用して、薬剤は最後に手段にしていた。
だが、結構高い。
値段的には薬剤と同じくらいかかってしまう・・・
そうだ、ニジマスの稚魚に納豆を食べさせてみよう!

稚魚が小さい間なら粘る納豆を買ってもそんなに高くつかない。

そう思って彼女から購入した納豆をニジマスの餌に10%添加で与えてみた。

で、どうなったかと言うと、うちの養殖場では主に練り餌を与えているのだが、原料に粘り気がなく水中でバラけて水が濁り、水質が悪化したり餌のロスが出てしまい問題があったのだが納豆を混ぜた所、餌に粘りが出て、この問題も一気に解決してしまった。

1ヶ月2ヶ月と飼育しているうちに気が付くと毎年決まった様に出ていた病気が今年は出ない。

それに成長も何だか良いみたいだ。

きっと生きた納豆菌が腸まで届きニジマスの免疫力が上がっているのかもしれない!

普段は高いお金を払ってプロバイオティクスを使っているのだが今年の稚魚は納豆だけを使って飼育した。

ところが、最初は殆どお金のかからなかった納豆の使用量が稚魚の成長に伴い指数関数的に上がってくる。

もう、僕の食べる分を諦めても足りない。

こうなってくると、またしても何とか自分で作らなければという気持ちになってくる。

幸い上手くいかなくとも食べるのはニジマスである。

失敗しても文句を言わず黙って全部食べてくれる人が出来て相当気が楽だ。

自分用はしっかり粘るのを購入して・・・ニジマスには僕の作った出来損ないをあげよう・・・。

それから彼女から聞き出した情報を元にドラム缶風呂発酵を止めて発泡スチロールの箱に白熱球を使った保温も取り付けてインキュベーターを自作した。

幸いここ数年でネパールの電気事情は飛躍的に改善していた。

試行錯誤を繰り返すうちに粘りも何となく出てくる事もたまにあり、しっかりと納豆菌が繁殖して、あの納豆の香りが十分に出るようになってきた。

菌糸が十分に発達して豆全体に厚く真白く付く様になると、食用には向かないがプロバイオティクスとしての効果はほぼ同等の餌用納豆が安定して生産できるようになったのだった。

生産量も1回のバッチで1~1.5kg出来るので、1回作れば1週間ほど餌用には困らない。

しかし 、ここまで来てひとつ問題が発生した。

どうしても粘る納豆が大量に(1日700~1,000g)必要になった。

と言うのは、今年はニジマスの餌の原料の飼料用乾燥エビ(インドから輸入)が手に入りにくい。
しかも大幅な値上げ。
1年前には140円/kg(数年前まで100円だった)物があれよあれよという間に200円になってしまった。

買おうと思っても金が無い。
やっと金の都合が付けば品切れ・・・という状況が続いている。

そればかりではない。
餌の原料の大豆も一年前のほぼ倍の値段である。

今までは餌の状態に加工して160円程だったものが250円でも難しくなってしまったのである。

先日Yahooニュースで日本の養鶏業者が餌の値段が1kg当たり30円値上がりしてコスト割れを起こしているとの事、ネパールでは90円の値上がりである。

僕の計算では餌が90円値上がりすると成魚のコストが200円前後も高くなる。

そんな状態で雨季前に飼料用乾燥エビを買い損なってしまった僕は仕方なく誰も手を出さない食用乾燥エビをザルでふるい落としたカスを購入するしか無かった。

これは粉末にすると粘り気がなく餌に混ぜると全くまとまらず、ボソボソでバラけてしまい餌にならない。

この海老カス、値段は1kg/100円とかなり安い。

食用の干し海老が400円/kgであるから、考えよう使いようによってはボロい商売ができるかもしれない。

要は納豆を混ぜて餌を粘るようにすれば良いのだ・・・。

今は殆ど粘らなくとも、そのうち粘るだろう・・・くらいの軽い気持ちで海老カスを500kgも購入してしまったのは良いのだが、肝心の納豆がちっとも粘ってくれない。

流石に焦ってしまった。

何としても粘る納豆が必要で、これが無ければ購入した500kgの海老カスがすっかり無駄になってしまう。

これはかなり痛い・・・と言うより養殖場の危機である。

出来なければもう餌は無い・・・おしまいだ。

そんなこんなで追い詰められて、ますます納豆作りに熱が出る。

熱で思い出したが、納豆を作る時も納豆は自分で熱を出す。

以前少量で実験していた時には気が付かなかったのだが、500g~1,000g作る様になるとはっきり分かる 。

堆肥や、麹が発酵する様に納豆も発酵する時に自分で発熱することが分かった。

茹でた大豆を金属製のボウルに入れて納豆菌を種付けして発砲スチロールの箱に入れ、25Wの裸電球二つを直列に繋いで12.5Wのヒーターとして使っているのだが、ヒーターを入れて3時間位は納豆の品温は殆ど上がらない。

ほぼ最初の温度を維持するだけなのだが、納豆菌が活発に増殖を始め、豆の表面がなんとなく白っぽくなってくる頃になると勝手に発熱が始まってどんどん温度が上昇し始める。

ヒーターを切ってもどんどん上がる。

仕方が無いので発砲スチロールの蓋を少し開ける事になるのだが、それでもぐんぐん上がる。

心配になって箱から豆を入れたボウルを外に取り出したり、発砲スチロールの中に氷を入れたりするのだが、温度は思うように下がらない。

毎回とんでもなく温度が上がり、その度に納豆が茹で上がってしまうのではとバタバタと右往左往して 、やっと落ち着いてきた頃、ボウルの上にかぶせた乾燥防止用のキッチンペーパーをうやうやしくめくってみると、そこには・・・真っ白な菌糸で覆われた素晴らしい出来栄えの納豆が現れる・・・のだが、試しに箸でほじくり返してみると・・・粘りがない。
食っても美味くない。

どうしてだろう?

納豆菌は自ら発熱して順調に絶好調で増え 、市販品では見た事も無いような立派な菌糸をはっているのに、粘りは最初から最後まで出ない!

明らかに納豆菌にとって健康的な環境で十分なご飯(大豆)をモリモリ食べ、その結果爆発的に増殖していた・・・それなのに何故⁉️

何度も何度も繰り返したが上手くいかない。

それに、以前は毎日のように新しいアイデアが浮かんで来たのに、それもやがて底をついてしまい、もう何も思いつかない。

新しいアイデアが浮かばなければ納豆を作る意味も無い。

その頃になるともう冷凍庫は出来損ないの納豆が満杯で他の食材を入れるスペースもとっくに無くなっていた。

幸い出来損ないでも菌糸が十分に出ていれば餌に混ぜるとある程度餌の粘りは向上していたので「もうこの辺でいいか・・・」といった雰囲気もあって、またしても諦めモードが漂いだしていた。

と、そんなこんなの数日前、夜中の2時に新しいアイデアが突然閃いて目が覚めた。

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