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ユーザーコミュニティが盛り上がるのは「自己実現欲求」を刺激するから? 〜kintoneを例に考える、熱量が生まれる構造〜

今回はユーザーコミュニティの「熱量」について。熱量が生まれる理由を、構造的に考えてみます。

ソフトウェアベンダーの社員として、自社のユーザーコミュニティに関わり始めて早2年。知れば知るほどコミュニティは不思議な場所です。ユーザー交流の素晴らしさは言わずもがな。時にメーカーを超えるあの熱量には驚くばかりです。

あの熱量はなぜ生まれるのでしょうか。今回は、「自己実現理論」を引き合いに出して、私の仕事を例にあの熱量が生まれる理由を考えていきます。

私のお仕事とkintone

まず、今回例に出す「私の仕事」について説明します。

私は普段、ソフトウェアベンダーのサイボウズに勤めています。クラウドサービス「kintone」のユーザーコミュニティを担当しており、日々ユーザーの方々と色々な形で交流をしています。

kintoneの大きな特徴はマウス操作でビジネスソフトを作り変えられる点です。その為、ソフトウェア知識の浅い方でも比較的運用がしやすく、幅広い業種・部門の方にご利用いただいています。

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2019年事業説明会 配布資料」より

その為、コミュニティの参加者属性も様々。エンジニアとユーザーの両方が参加し、また彼らの業種・業務もてんでばらばらです。属性の全く異なる方々がkintoneを通じて繋がる様子は、kintoneコミュニティの大きな魅力の1つです。

盛り上がるオンラインコミュニティ

kintoneと言えば、ユーザーコミュニティが活発なことも特徴の1つ。

代表的なのは、ユーザー運営の勉強会「kintone Café」や、サイボウズ主催のユーザー事例コンテスト「kintone hive」などのリアルコミュニティです。

一方、最近はオンライン上のコミュニティも盛り上がって来ました。Twitterを中心としたコミュニティが広がっており、この2年でkintoneのツイート数は3倍以上に増加しています。

Twitterではユーザー同士が励まし合い、アドバイスを送り合う「優しい世界」が生まれています。この様なコミュニティが、しかもTwitterに生まれたのは、自社の事ながらすごい事だと思います。

このコミュニティを支えるのは、集まったユーザーの「熱量」です。あまりにも高い熱量は、もはや「ファン」という言葉では説明できない程だと思います。

この根源は何なのか。この世界を守りたいからこそ、この疑問は私にとって重要な問でした。そして、結果的に納得できたのが「自己実現」との関わりです。

自己実現理論とコミュニティ

「マズローの自己実現理論」によれば、人間は自己実現に向かって絶えず成長するもので、人間の欲求を5段階の階層があると言います。

コミュニティは、この上位3欲求を満たしやすい環境です。特に地縁的な場所ではなく、自発的に参加する様な「実践コミュニティ」は、構造的に自己実現欲求を満たしやすい場所だと言えるでしょう。

この本能的な欲求が満たされることこそが、高い熱量を生み出すのではないでしょうか。更に言えば、kintoneは自己実現欲求を一層満たしやすい特性を持っています。これが、kintoneコミュニティの熱量により油を注いでいると思います。

どの様に欲求を満たしていくのか、kintoneの特性とは何か。ここから、順番に説明をしていきます。

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孤独な担当者(所属と愛の欲求)

実は、kintone担当者は孤独になりやすい構造があります。

前提として、多くの人は変化に消極的です。変化による中長期的な改善よりも、短期的な変化の不便を嫌います。当たり前ですが、kintoneに詳しい人も担当者1人であることが多いです。

その為、現場ユーザーのマジョリティは「変化を嫌い、製品を知らない層」だと言えます。

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つまり、担当者は「よく分からない物を押し付ける面倒な奴」として、ユーザーには映り易い状況です。kintoneに限らず、この様な孤独な状況の中で、システム導入を進める担当者は多いのではないでしょうか。

特に、kintone担当者は現場の業務担当者なことが多く、初めてのシステム導入経験なことも少なくありません。そんな彼らにとって、コミュニティを通じて仲間ができることは大きな励みになるのではないでしょうか。社内では得づらい「優しい言葉」は、傷ついた心の支えとなります。

こういった同じ仲間達との繋がりは、「社会的欲求」や「愛の欲求」を満たすことに繋がると言えるでしょう。

コミュニティで得られる知識と反響(承認欲求)

コミュニティで得られる物は、社内やメーカーから手に入らない物で溢れています。

仲間作り、上司の説得方法、業務改善のメソッド…。これらはkintoneを使い続ける上で、とても重要なノウハウです。一方で、製品の枠を越えた情報でもあり、メーカーからは提供が難しい類の物でもあります。

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加えて重要なのは、他者からの反響です。

最初は情報を得るだけだったのが、次第に自分のノウハウを提供する様になるでしょう。するとコミュニティからは、共感を集めたり、時には感謝を得ることもあります。

導入初期の担当者は否定されることが多く、自信を失いやすいものです。その中での好意的な反響は、自己の肯定感を高める事に繋がります。

これらの働きは、まさに「承認欲求」を満たすことに他なりません。

実践的学習が作る、創造的活動(自己実現欲求)

コミュニティも様々な種類がありますが、製品のユーザーコミュニティは非常に創造性が高い場所だと思います。

コミュニティで学んだことを仕事に活かし、そこから得たフィードバック元に再びコミュニティで学んでいく。「実践コミュニティ」という概念では、コミュニティでの学習と実践のサイクルが、知的創造性を高めるとされています。

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kintoneのコミュニティでは、まさにこのサイクルが高速かつ一層創造的に行われています。

なぜなら、マウス操作でシステムを作り変えられるkintoneは、コミュニティでの学びを瞬時に反映することを可能にするからです。それはちょっとした変更の連続ですが、このトライアンドエラーのプロセスを繰り返すことができます。

簡単に作れる反面、kintoneにはできないことも多くあります。それは一見不便なことですが、見方を変えれば工夫の余地を作ります。ユーザーは様々な運用の工夫を考え、「そもそもこの機能は必要なのか?」と本質的な問いかけを始めます。

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kintoneのシステム開発の様子(公式ページ「基本機能」より)

これらは非常に知的創造性の高いプロセスです。故にコミュニティのユーザーは「kintoneは楽しい」と語ります。自ら考えた工夫を、楽しそうに教えてくれます。

これらの工夫は、いずれ社内の変化として開花していきます。それは数値だけでなく、時には同僚の行動を変えていきます。自らの創造性が社会にポジティブな変化を与えている。この事実を知った時、担当者は自己実現の欲求を満たすことができるはずです。

コミュニティから生まれる物を見届けたい

コミュニティは大きな自己実現の力を持っています。この二年間、コミュニティを通じて人生が変わったユーザーを目の当たりにして来ました。

この可能性に溢れる場所を、私はメーカーの人間として大切にしていきたいです。だからこそ、そこで起きた出来事を構造的に理解して、外部に説明ができる様になりたいと考えています。守る為には、他者の理解が不可欠だからです。

この記事もその一環として書きました。同じ様な思いをお持ちの方とは、ぜひ情報交換をして、互いに理解を深めていきたいです。ぜひ、コメントに感想や情報をお待ちしております。

最後に、この考えに至るまでには書籍「コミュニティ・オブ・プラクティス」が大変参考になりました。企業内のコミュニティを中心とした内容ですが、ユーザーコミュニティにも当てはまる内容です。

コミュニティが持つ知的創造のプロセスを、構造的に理解できるのでオススメです。