#002 あなたの眺めている景色は"ありのままの世界"ですか?
1.はじめに
"私"が"私"だと思うこの感覚はなんなんだろう?と考えたことはありませんか?
こんにちは。たくやです。
本業のかたわら、空き時間を利用して調べ物をするのが趣味の人間です。
子供の頃から常識や習わし、当たり前にあることなどになんで?と思うことが多かったのか、大人になってからそれらの答えを自分なりに見つけたいという気持ちにブレーキがかけられなくなり、色々なものを調べてまとめることがライフワークになってしまいました。
冒頭に記した疑問に答えを出したい欲求に駆られて、意識や無意識というものは一体何なのかを自分なりに調べてみると、過去の研究結果や近年の見解、様々な著者の意識に対する見解を見ていく中で、より<自分>についての見方が増え<自分>と向き合いやすくなってきました。
せっかく集めた情報や自分なりのものの見方を自分だけで持っているのはもったいない、周りの人と意見を交換したいという思いから、調べた内容を資料にまとめて共有するイベントを2月と3月に開いたんです。
この時に伝えられたのはこの場にいた11名。
また、参加者の方からも情報が大量だったので復習したい、という要望があったので記事を分けて投稿していこうという形になりました。
シリーズで投稿する<意識と無意識>
今回は、私たちが受け取った情報を脳がどれだけ加工を加えているか"錯視絵"を使いながら見ていきたいと思います。
2.目で見る錯覚ー錯視ー
みなさんはエッシャーという画家を知っていますか?
エッシャーは大好きな画家の一人なのですが、その絵は不思議な世界へ私たちを誘っているかのような構成をしていますよね。
※エッシャーの作品”相対性”や”滝”、”物見の塔”など見てみてください。
パッと見ると成立しているかのように見えるけど、よくよく見ると何かがおかしい。そんな面白さを見せてくれる絵たちなのですが、一体なぜ私たちの意識は、最初その不思議さを一度は受け取ってしまうのでしょう。
その疑問を紐解くために、錯視絵と呼ばれるものをいくつか見ていき、私たちの脳はどう映像を処理して私たちに見せているのかを見ていきたいと思います。
2-1.ミュラーリヤー錯視
有名な作品から。
ドイツの心理学者フランツ・カール・ミュラー・リヤーが考案した錯視絵。
線の両端に内向きの矢印を付けたものと外向きの矢印を付けたもの線は、上が短く、真ん中は長く感じるが、実際は同じ長さであるというもの。
2-2.デルブーフ錯視
ベルギーの哲学者ヨーゼフ・レミ・レオポルト・デルブーフが考案した錯視絵です。
同じ大きさの円(黒色の円)の周囲を囲む円の大きさを変化させると、中心にある円の大きさは、同じであるにも関わらず違っているように感じるという錯視絵です。
これと類似した錯視絵にエビングハウス錯視というものもあります。
こっちの方が顕著かもしれないですね。
2-3.チェッカーシャドゥ錯視
続いては、2005年にマサチューセッツ工科大学のエドワード・エーデルソン教授が考案した錯視絵です。
この画像中のAとBと記されたタイル。
同じ色なんですよ。
こうすると、わかりやすいですね。
途中までAとBは同じ色なのに絵が完成に近づくと、いつの間にか違う色としてしか見えなくなっていきます。
これは人間はその対象物のみではなくてその周りの状況や環境も含めてその映像を判断するという働きから発生する錯覚のようです。
光の当たり方、緑の円柱からの影の影響を脳が計算してコントラストを変えてしまっているのかもしれないですね。
2-4.オオウチ錯視
ここからは動く錯視絵です。
デザイナーの大内元氏のデザインをもとにしたオオウチ錯視です。
顔を左右にゆっくり移動させながら見ると、円の部分と地の部分がスライドして見えてきませんか?
あ、外でこの画像を見られてる方は周りに注意してくださいね。
怪しい動きでスマホ眺めてる人かと思われるかもしれないので。
2-5.ピンナ錯視
続いてはこちらの錯視です。
円の中心を眺めながら顔を画像に近づけたり遠ざけたりしてみてください。
周囲にある円がそれぞれ回転しているように見えてきませんか?
この錯視が起こる原因についての詳細はこちらのページに書かれていましたので興味のある方がいましたら覗いてみてください。
2-6.斜塔錯視
2007年の“Best Visual Illusion of the Year”コンテストで優勝した錯視です。
この塔の写真”同じ写真を2枚並べているだけ”なんです。
塔が傾いている側(右側)の写真の方がより右側に傾いているように見えませんか?
でも、これ同じ写真なんです。
2-7.色彩同化グリッド錯視
錯視絵の最後を飾るのはこちら。
エイヴィン・コロース氏が作成した錯視画像です。
まずは下の画像を見てみてください。
この画像、カラー写真ではありません。
モノクロの写真に色のついた線を載せているだけなんです。
他に、ドットや線を格子状に配置しても同じようにカラー画像のように見えてきますね。
そして、この現象は映像にしてもその効果が現れることがわかります。
3.情報を処理してから意識にのぼる
いかがでしたか?
ここまで見てきた絵や映像からもわかるように、私たちは視覚から受け取った情報を処理して私たちの意識に提供しているということが、みえてきましたね。
さて、ここでは私たちが普段目にしているものも脳の処理が入っているという話題をしていきます。
3-1.色の恒常性
こちらは立命館大学の北原教授のホームページで紹介されている画像です。
みなさんの目には、このいちごは何色に見えますか?
こちらの画像のいちごの色は”灰色”で構成されています。
このいちごは灰色なんです。
でも、灰色に見ようとしても見えませんよね。
私には、いくら灰色と思っても赤にしか見えません。
このように、私たちの脳内では今までの経験から、この物はこの色なんだという補正がかかって私たちの意識にのぼってきます。それも私たちの意識の届かない領域で。
これを”色の恒常性(こうじょうせい)”といいます。
”恒常性”とは環境に左右されず、そのものを一定のものとして保つ作用のことを言います。色の恒常性の場合は、どのような照明の環境であっても赤は赤く見えるということです。消防車は朝見ても、夜の暗闇で見ても赤い車と認識される、ということですね。
視覚の恒常性には、他にも大きさや、形、明るさの恒常性などが知られています。
3-2.可視光線 私たちの見ている世界
私たちが何かを”見ている”という行為は、視細胞で感知した光線を網膜の錐体細胞と呼ばれる視覚細胞で赤・青・緑の3原色からなる情報に変換して頭の後ろ側にある視覚野で映像として再構成されたものを認識することです。
その網膜で感知できる光線も電磁波の中の一部の帯域のものなので、私たちが”見えて”いないだけで、私たちが生活している世界にはもっとたくさんの波長のものが存在しているわけですね。
一部の昆虫や鳥類の中には、紫外線領域の視覚を持つ種もいるようです。
つまり、私たちは世界をありのままに見ているわけではなく、私たちのシミュレートした”私たちの世界”を見ているというように言えますね。
4.脳内シミュレーション
いちごの例から、色ひとつをとっても私たちの脳は処理を加えていることがわかってきたかと思います。
視覚からの情報だけでもその他にも大きさや、形、明るさなど様々な情報を計算して私たちは意識の中で
"自分や周囲の状況のシミュレーションを描いている"
わけですね。
4-1.結びつけ問題 binding problem
ここで一つの疑問が出てきました。
視覚だけでもこれだけの脳内計算を行なっているということは、五官のその他の感覚器官からの情報からも、計算されてシミュレーションを形作っていると考えられます。
感覚器官からの情報によって私たちの脳内で計算する場所は違ってきます。
それなのに、たまにyoutubeとかでみられる映像と音声がずれているようなことは私たちの感覚では一切感じないですよね。
それも物心ついてから今まで感覚とのラグを意識的に感じる事はまずないかと思います。
”結びつけ問題”というのですが、これらのたくさんの情報をどのように脳内で処理しているのか、脳内のどの場所がどのように働いているからなのかはまだ解明されていなくて、研究が進められている分野です。
5.計算にも時間がかかる
突然ですが、1+1+1= いくつですか?
すぐに答えは出ましたか?簡単でしたよね。
簡単な足し算の問題でも、時間は少しかかります。見た瞬間にではなくコンマ何秒かは文字を読んで、理解して、計算処理をして意識に"3"と答えを上げるまでには時間がかかったかと思います。
そう。計算も物理的現象なんですよね。時間がかかるんです。
これまで、錯視絵や色の恒常性のお話、それと五官からの情報を脳内で結びつけて現実のシミュレーションを作り出すお話をしてきました。
いづれも脳の計算から生み出されたものです。
つまり、脳の計算にも時間がかかっていると考えられますね。
この脳が受け取った情報を計算するにはどれくらいの時間がかかると思いますか。
この問いについて、1980年代に研究結果から一つの答えを出した人がいました。
その時間は ”0.5秒” です。
5-1.ベンジャミン・リベットと"0.5秒"
カリフォルニア大学 サンフランシスコ校の神経生理学者のベンジャミン・リベットは1983年に発表した論文の中で、意識的、無意識的に起こすいずれの活動においても脳内では0.5秒という時間を要することを指摘しました。
こちらの一方は人間に"自由意志(私たちのすることは自分の意志で決めている)はあるのか”という、現在にまで続く話に繋がるものとなっています。
次回は、ベンジャミン・リベットの研究結果から
1.私たちに自由意志はあるのか
2.私たちが感じている世界は、今起きていることと言えるのか
について共有していきたいと思います。
6.まとめ
今回は、錯視絵を使って視覚からの情報から私たちの視細胞や脳は情報を計算処理して私たちに認識させているのかをみてきました。
視覚からの情報に絞ったのは、五官からの情報の中で視覚からの情報量が一番大きいという理由からでした。
情報を処理しているということは、そこには計算が働いているということ。
計算には時間がかかります。それがたとえ1+1のような簡単な式の答えを出すものであっても。
この感覚器官からの伝達及び脳内での計算処理時間はどれくらいかかるのか、という問いに対して、ベンジャミン・リベットの報告から0.5秒という答えが導かれています。
7.参考文献・URL
・ユーザーイリュージョン(トール・ノーレットランダーシュ:紀伊国屋書店:)
・マインドタイム(ベンジャミン・リベット:岩波書店)
・北岡明佳の錯視ページ
・錯視のカタログ
patreon.com Oyvind Kolas :Color Assimilation Grid Illusion
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