ニュージーランドのトップレストランに共通する「オン・サイト」という”究極のこだわり”
こんにちは。ニュージーランド写真家のトミマツタクヤです。
ぼくが2018年に出版させてもらったニュージーランドガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』での取材中に最も感銘を受けた ”On Site(オン・サイト)” という価値観について詳しく書いていきたいと思う。
2018年のガイドブックロケでは、ぼくは四角大輔さんと共に、191の飲食店/52の宿泊施設/68のオーガニック関連施設/39のワイナリーを約2カ月かけて一緒に取材をさせてもらったのだけど、その取材の中でニュージーランドのトップを行くレストランやカフェ、ワイナリー、宿泊施設などに共通していたのが、この『オン・サイト』という経営スタイル。
後ほど詳しく説明させてもらうが、直訳すると「目の届く範囲」という意味。つまり「顔が見えること」を大切にし、小規模経営へのこだわりを持ったレストランやカフェのことをここでは指すのだが、この経営スタイルは今の日本とは真逆の考え方。
近頃 日本では中村朱美さんの著書「売り上げを減らそう」が話題になっているが、この働き方はニュージーランドではすでに浸透しきっている当たり前の働き方で、この『オン・サイト』という価値観はその1つも2つも先を行っている経営スタイルだと個人的には思っている。
ぼくはこの価値観に触れて、この考えを自分の暮らしにも落とし込んだことで、自分の働き方、普段食べるものや身に付けるもの、さらには人間関係まで大きく変わり、実に身軽に生きられるようになった。
だから経営に興味がなくても、この考え方を知るだけで生き方が大きく変わると思う。なぜなら『オン・サイト』という価値観は「売上」ではなく「生き方」を大切にしている哲学だから。特に大手企業に勤めている人ほど、この価値観に触れることは大きなパラダイムシフトになるんじゃないかな。
なので、ぜひ最後まで読んでみて欲しい。きっと、これからの人生を心豊かに生きるためのヒントをたくさん見つけられるはずだ。
▶ ニュージーランドNo.1レストランはわずか20名しか入れない小さな店だった
ぼくが一番感銘を受けたレストランでもあり、ガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』では2ページにも渡って特集しているニュージーランドでのNo.1レストランが『Gatherings(ギャザリングス)』。
ここのレストランは 味・コンセプト・見た目の美しさ・店内の雰囲気・ホスピタリティなどすべてが一級品で、ニュージーランド内では別格で群を抜いていた。
ここは基本コース料理なのだが、出てくる1つ1つの料理は実に美しく、繊細な味で、とてもニュージーランドのものとは思えなかった。
〈 豆知識 〉
ニュージーランドの国旗には ”ユニオンジャック” のマークがあるように、イギリス人の手によって植民地化が進められたこともあって、「食」のレベルは高いとは言えない。外食はとにかく高く「このクオリティーでこの値段!?」と何度悲しくなったことか…(※あくまで個人的な意見です)
しかし店内の雰囲気は「レストラン」というよりも「カフェ」に近い感覚で、入れる人数は20名ほど。夜7時前になると、店内はあっという間に満席になった。
当時、まだ実に ”日本的” な考え方をしていたぼくは「なんでこんな繁盛しているのに、こんな小さなお店でやっているんだろう?」「もっと席数を増やすか、2号店を出してお店を拡大すればもっと儲かるだろうに」なんて浅はかなことを思った。
ぼくの周りの経営者でも、売上を上げるために2店舗目・3店舗目を経営する人は実に多いし、やはり事業をやるならば売上を上げたい、稼ぎたいと思うのは実に普通のこと。それ自体何も悪いことでも何でもないし、情熱を持って仕事をしている仲間の姿は実にカッコいい。
でもオーナーのアレックスに聞くと、料理の味と比例するような優しく暖かい口調で、小規模経営へのこだわりや、自分なりの哲学を1つ1つ丁寧に説明してくれた。
ぼくが大切にしているのは ”On Site(オンサイト)” なんだ。食材にしても、料理にしても、自分が心から納得できるものしかお客さんには提供したくない。だからそれには自分が信頼できる人から食材を仕入れる、もしくは自分たちの手で育てるのが一番。ちなみに食材に関してオーガニック自体にはこだわりはないけど、最高の料理を作るためにいい食材を求めた結果、それが有機栽培のものだっただけなんだ。
そして何よりも、そういった人たちの想いものせて作った料理をちゃんと自分の手でお客さんに届けたい。だから、ぼくにとってはこのサイズのお店がベストなんだ。お客さんとも直接会話をできるし、スタッフの様子もしっかり見られるからね。
従業員にしても、お客さんにしても、ワインや食材まで、すべてちゃんと自分の「目の届く範囲」で経営するスタイルが自分にとって一番だというアレックス。店内とキッチンを行き来し、ゲストの会話もゆっくり楽しむ姿は、ニュージーランドNo.1のレストランとは思えなかった。お店は定休日は週3日で、ランチはせず、営業は夜のみという、ニュージーランドのトップレストランでありながら、実にマイペースかつ小規模な経営スタイルをここ『Gatherings』は貫いており、その哲学を説明してもらった後、自分の浅はかな考えが恥ずかしくなってしまった。
▶店舗が拡大すると「売上」は上がるが「質」は下がる
その後もガイドブックの取材を続け、トータルで取材先は300件を超えていた。ガイドブックではページ数に限りがあるため、泣く泣く載せられなかった取材先もたくさんあるが、心から感動したお店に共通していたのは「自分たちの哲学に対して一切の妥協をしていない」という点。
ニュージーランドにはチェーン店や系列店自体がほとんどないが、オークランドの中心部に「AMANO」という人気店がある。店内に入れば、NZ1・2位を争うオシャレさが最大の売りで、レストランに併設されているベーカリーは行列がよくできているほど。
ここはオークランド市内に4店舗展開しているのだが、どの店舗も味もいいし、どの店舗も最高にオシャレ。しかし ある店舗の料理は出てきた時に少しだけ冷めていたり、ある店舗はスタッフがとても愛想が悪かったりと、拡大をしたお店には何かしらの「マイナスポイント」が見受けられた。
もちろん悪いお店ではないし、店内の雰囲気も料理も実にオシャレ。でも、すべての人に紹介したいと思えるレストランではなかったのも事実。
やはり大規模になればなるほど「目の届かない範囲」が広がってしまい、何かしらほころびやマイナスポイントが出てしまうのは、日本でもニュージーランドでも同じだった。
▶心からお勧めしたい『オンサイト』のこだわりを持つレストラン
もちろん経営スタイルや生き方に答えがあるわけではないけれど、そのあり方が美しく、心から感動した取材先に共通していたのは『オンサイト』という価値観を大切にし、『小規模経営へのこだわり』を持っていたレストランやカフェだった。
つまり「顔が見えること」を大切にし、食材は信頼できる地元の知人から仕入れる、もしくは各レストランが自分たちの手で育てた食材を扱う「Garden to Table」スタイルを実践していたお店たち。
ここで、191の飲食店の取材をした中から、ぼくが特にお勧めの「オンサイト」のこだわりを持ったお店のBEST5をご紹介。
1. Gatherings/Christchurch
2. Orphans Kitchen/Auckland
3. George Cafe/Tauranga
4. Fleur's Place/Moeraki
5. No.7 Balmac/Dunedein
こちらのレストランやカフェに関してはガイドブック『LOVELY GREEN NEW ZEALAND』でも詳しく紹介しているので、詳細を知りたい方はぜひ読んでみて欲しい。
▶『オンサイト』という価値観に触れてから、「なんとなく選ぶ」がなくなった
『オンサイト』というこだわりを持って経営している人たちの料理や商品と何度も触れたことで、ぼくの中で変わったことがたくさんある。
たとえば、普段来ている服。
今までは下着や自宅着などは「コスパ」を意識して、できるだけ安く高機能なものを選んでいた。でも今はその服がどういう工程で作られているのか、どんな企業が、どんな思いを持って作っているのか。
そんなことを意識して選ぶようになってから、結果的にオーガニックコットンの生地で作られているものや、地球環境に負荷の少ないエシカルブランドやアウトドアメーカーの服しか着なくなった。
あと食べる物もそう。さすがに日本ではニュージーランドのように生産者の「顔」までは見えないけれど、その食材の産地はどこか。どのように作られたものなのか。
つまりすべての消費において「なんとなく選ぶ」ということを一切しなくなった。
食べるモノにしても
身に付けるモノにしても
自分がどれだけ愛せるか。どれほど惚れ込んだか。
1つ1つ買うものの値段はぐっと高くなったけれど、結果的に無駄な消費がなくなり、何よりもモノを今までより何十倍も大切に扱うようになった。
さらに面白いことに、今まで比べて心にもずいぶん余裕が生まれて、人間関係まで大きく変わっていった。それだけこの『オンサイト』との出会いは、ぼくの人生を大きく変えてくれた。
▶「経済あっての幸せ」ではなく「幸せを考えた上での経済」。それがこれからの働き方。
『オンサイト』という価値観によって、ライフスタイルが大きく変わったぼくだが、自分が運営する事業にも『オンサイト経営』を取り入れている。
ぼくが今年の5月から始めたニュージーランド・ライフスタイルブランド『iti(イティ)』では、ニュージーランドのエコアイテムやオリジナルグッズを制作して販売しているが、完全予約販売のオンラインショップというスタイルで運営。もちろんインポート商品もすべて、生産者の顔が見えるものだけを取り扱うようにしている。
またiti が運営する会員制コミュニティでは、「1人1人ちゃんと顔が見えるように」という思いから定員は30名限定。
もちろん売り上げがでないことには事業は成り立たない。
でもニュージーランド政府は2019年5月30日に、幸せをコンセプトに入れた予算「ウェルビーイング・バジェット(幸福予算)」を発表。国や国民の幸せを体系的に考え、予算に落とし込んだ国としては世界初で、この国は「経済あっての幸せ」ではなく「幸せを考えた上での経済」という考え方が根付いている。
だから『iti』では、そんなニュージーランドの価値観や働き方を取り入れて、「こんな働き方があるよ」「こんなライフスタイルがあるよ」と少しでも感じてもらえたら嬉しいし、自分たちが提案するライフスタイルをまずは自分たちで体現する。それが何よりも大切だと思って活動している。
3人でスタートしたNZライフスタイルブランド『iti』。共同ファウンダーのAKINAさん(中央)とアシスタントのNON(左)と一緒に先月末に初めてみんなで伊勢神宮&温泉旅行に。ニュージーランドみたいな家族経営でこれからも楽しく発信していきます。NZの暮らしやエコ/サステイナブルに興味がある人はぜひInstagramぺージフォローしてね!
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