起業より投資を選ぶサラリーマンの落とし穴
筆者は過去に何度も「まず自己投資、資産運用はその後」と主張してきた。しかし、昨今のNISAや米国株の盛り上がりを見る限り、資産運用の投資に対しては積極的であるのに対して、自らのスキルアップをしたり独立をするビジネスを頑張るサラリーマンは少ないと感じる。
このような「起業より投資」というトレンドの背景にあるのは「自己投資より株式などの投資の方が確実で簡単」という誤った考えがあると思っている。
サラリーマン、経営者、投資家を一通り経験した立場から言えば、昨今の米国株ブームとイージーな相場が多くの人の目を曇らせていると感じる。
誤解のないようにいいたいのは、世の中には飛び抜けて優秀な人がいていきなりトレーダーとして成功する例があるのは知っているし、人の能力は様々でビジネスより投資が向いている人がいるのもよく理解している。本稿でいいたいのはあくまで「最大公約数的な普通のサラリーマン」が資産形成をするケースについて取り上げている。
資産運用はイージーではない
2000年のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショック、2020年のパンデミック時の急落を経験せず、それ以降に米国株を始めた人はまだ人生で大きな暴落を経験していない。
直近、2022年は金利上昇で崩れはしたが、急激な円安に救われたことで日本人の米国株投資家は本土にいるアメリカ人ほど大きなダメージを受けていない。さらにここ数年は米国株インデックスは二桁%のリターンが続いている。そのため、「株投資はルールを遵守すれば簡単に稼げる」と勘違いしてしまっている人もいると思われる。
しかし、本質的な難易度はビジネスより投資の方が高い。ビジネスは戦う戦場を選べるし、基本的には頑張ったら頑張っただけ成果が出る。その一方で、投資は一度難しい相場に入ると、自分が戦える相場になるまで待つしかない。その間、負けを取り返そうとガチャガチャ手を出すほどにドンドン負ける。
2020年以降はあまりに簡単な相場が続いているだけで、投資は簡単ではない。優秀な金融トレーダーやベテラン投資家は別として、ごく一般的なリスク耐性しかないサラリーマンが円高と株の下落を食らうと損切りなどできるわけもなく、長期間…下手をすると10年ほど資金ロックされれる。個別株なんてした日には目も当てられない。
株は上昇より圧倒的に下落時に足が早いので暴落を想定せず、環境変化の認識を怠るとコツコツドカンになってしまうのだ。
筆者は投資を否定したいわけではない。むしろ今後の日本では必須スキルになるだろう。ここでいいたいのは「リスク耐性もトレードスキルもないのに、ビジネスより簡単だと舐めてかかって勝てるほど金融投資はイージーではない」ということだ。
ビジネスの方が遥かに確実で早い
一方で独立して自分でビジネスをする世界の方が遥かに確実性が高く、それでいて成果が出るのも早い。
米国株投資の長期的な平均リターンはせいぜい、10%前後といったところだが(近年の2桁リターンも暴落が来ると本来の期待値に収束する)、ビジネスはうまくいけば1年で「何倍」にもなる。サラリーマンの年収を独立して月収で稼ぐ人はまったくめずらしくない。
しかも利益確定して一旦収益を確保する投資と違って、ビジネスの場合は高い収益性は永続する。さらにビジネスは「手も足も出せず、何年も待つ」ということはなく、基本的に努力すれば努力するほど、行動すれば行動するほどドンドンリターンを得られる。
そして資産運用は元本を動かして稼ぐゲームであるため、元手がないと大して稼げない。故にサラリーマンが資産形成をするなら「ビジネス→投資」という順番がセオリーであり、あまり元本がないのにいきなり投資からスタートしても人生を変えるほどの資産に化けるのは数十年待つことになる。
資産運用をする目的は、すぐには使わない余剰資金を運用して増やすことで人生を豊かにすることのはずだ。それなのに、投資にのめり込みすぎると、ときに爪の先に火を灯す勢いで節約してその年齢でしかできない経験や機会を捨ててまで資産運用をすることになる。これは本末転倒に思える。人生の主役が自分ではなく、資産に変わってしまっているからだ。
人の生き方はそれぞれなので好きに生きればいいと思うが、あくまで数字を使ってロジカルに考えればサラリーマンがビジネスより難易度が高く、成果が出るまで大変時間がかかる資産運用からスタートするのは合理的に思えない。やはりまずビジネスを頑張って収入を増やして、その後に資産運用をするべきだと思うのだ。