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第二十八話 決壊
「じょ、冗談やんな」
「今まで俺がしてきたことって…」
あるアニメでも言っていた。
希望が絶望に変わるその時、膨大なエネルギーが生まれると。
私は未だかつて感じたことのない最大にして最凶の闇に呑まれていた。
時は2022年1月。
ダイエットを始めてからあと少しで約1年になる。
そう回想していた私は無気力だった。
以前は-50kgを達成するという揺るぎない、そして巨大な壁に挑んでいた。
あの頃は毎日が輝いていた。
痛みや苦しみ、悔しさといった激情の全てが愛おしく思え、日々を重ねていた。
引き換え、今はどうだろう。
やりたい事がぼんやりしていて、全力を出しきれない。
ダイエット前と同じ状態だ。
まだこれだけならなんとかなる。
やることや目標を再度見つければ変われる。
そう自分を誤魔化し続けていた。
だが所詮は結論を先延ばしにしているだけだ。
本で学んでいたはずなのに。
こんな風にだけはならんとこと誓ったはずなのに。
そして、審判の日は突然きた。
1月も終わりを迎える最後の日曜日。
家族揃っての夕食。
好物のすき焼きで満腹まで肉やご飯をかき込んだ。
食べた後は眠くなるため、先に風呂に入ろうと脱衣所へと向かった。
ふと鏡に映った自分の身体が目に入った。
それはかつて絶望に震えた醜い下腹と同じだった。
全身が凍りつき、現実に引き戻された。
今、何キロなんやろ。
最近は視界から遠ざけていた体重計に乗ってみると…
そこには85kgの数値。
何度乗り直しても85kg。
気がつけば+20kgのリバウンド。
吐き気を抑えつつ、風呂に入った。
そして湯船に浸かった。
一体、自分のしてきたことって何やったんやろ。
結局、何も変えられない。
仕事も辞めて。
残ったんはアラサーで無職、小太りの何の取り柄もないオッサン。
吐き気は消え、あるのはただ後悔だけ。
俺って、ほんとバカ。
瞳からつたう雫が水面に落ちた時、男の心は完全に砕け散った。
第四幕 〜完〜
次回 第五幕「天破の物語」
〜這い上がれ、命ある限り何度でも〜