この人、「もしも僕なら」を使って親友を守るんだ。ーー成長小説・秋の月、風の夜(71)
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――ええと、高橋さん一気に、手に負えないボリュームをさわりすぎちゃって、ハレーション起こしてるって感じます。
「そういう状況か。ありがと奈々ちゃん、とっても役に立ってくれた。いったん切る」
――あっ、待ってください。
「なあに」
――四郎と高橋さんが二人でどんどん、いろいろ進めていくのはもっともだと思うんですけど、でも私、四郎がどんなに言いづらくても、四郎の役に立てたらいいな。
「役に立ちたいし、もっと情報共有したいし、三人で進めたいよね。奈々ちゃんとは家が近くじゃないから、会う頻度が違って、よけいに気が気じゃない部分があるかもしれないな。なるべくいろいろと共有するようにもってく。
……それでね、今夜は勘弁してやってよ。僕ら男連中のデリケートな話だ。世界で一番大好きなひとには、今の距離では一番内緒にしたい話題かも。
もっともっと、ずっと親しくなってからなら、一緒に扱ってもらうとホッとして愛情が深まるだろうな。でも今は、ムリには知ろうとせずに、ちょっとだけ待っててくれたら、もしも僕だったら安心できるかなって思うよ。
むしろ先に、今よりも、もう少し、四郎と奈々ちゃんとが距離を詰めてもらうのがいいのかもしれないし、プレッシャーがかからないように、あえて待っててもらうのがいいのかもしれない」
――えっ、そんな。
……と答えながら、奈々瀬は必要以上にどぎまぎし、そして高橋のハンドリングの巧みさに呆然とした。危機にいて着地点を欲している主体が四郎ひとりであることをつきつけないよう、「僕ら」と「もしも僕だったら」という主語のすり替えをしている。
「この話じゃなくって、世界中で一番大好きなひとに二番目に内緒にしたいことは共有できるように、四郎がそうできるように僕も考えてみる。それでどう?」
――わかりました。ちょっと四郎に代わってください。
「はい」高橋はあえて無造作に、四郎にスマホを渡した。
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