いつかべろんべろんに酔っぱらって肩を組んで歩きたいな。ーー秋の月、風の夜(50)
#9 いつか肩を組む日まで
宿まで徒歩。
夜風にあたりながら、四郎と高橋は歩いた。
「呑まなきゃよかった」
高橋が、意外と暗い声でつぶやいた。
「……そう、いうな」
四郎が少し、くちごもって言った。「俺やっぱり、運転ならわな、な。いっつも、お前に乗せてもらってばっかりやん。……お前が、後のこと考えしと、リラックスして酒飲めるように、したりたい」
「四つ先の信号までの人と車、ぜんぶ見えちゃうと、吐くぞ。まだやめとけ」
高橋は続けた。「ご先祖さまって他の人間にもわんさか詰め込まれているのに、お前だけがリアルに感じちゃえるのかもしれないな。いや、そんなことはどうだっていいんだ、お前が、とにかくお前が毎日楽しくて、人生も思い通りなら、他の事はどうだっていいんだ」
四郎はしばし、だまっていた。高橋の靴音が、夜気にひびいていた。
「……ありがと」
「いつか、二人でべろんべろんに酔っ払って、肩を組んで、こんな夜道を歩きたいな。言ってること、変かな」
「……いや」
四郎は、少しだけほほえんだ。
「……お前に会えて、よかった」
「ドライブ行ったら、奈々ちゃんとキスしちゃえよ。僕、途中でどっか行ってるからさ」
「え」
「怪我をさせないか、心配か」
「……うん」
「なあ、ご先祖さまたちさあ!」高橋は少しふらふらと歩きながら、前を向いたままで、四郎の胸腹に声をかけた。膨大な数、詰め込まれているご先祖さまの群れに。「子孫の恋を安全に守ってやれなかったら、あんたたちの子孫、絶えちゃうよ。いいの?」
ざわーーーあああぁっ。
汚れに汚れた魚網のこんがらがったような、びちゃびちゃした感じが、反応してめくれあがってくる。
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「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!