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恋のセッティングして自分の首しめた。――成長小説・秋の月、風の夜(13)

ツカサはごにょごにょと、むこうで何か言っている。電話口にしぶしぶながら、康三郎(こうざぶろう)が出た。四郎のおじだ。

高橋はすかさず、まくしたてた。

「もうさあ康さんさあ、昼間っからなにやってんのーー。先月から二週に5%ずつガタガタ売上落ちてんだからさあ、やめてよもう。このままいくと、そこ再来月閉めなきゃだよーー。しかもそこ僕が日本画描くための部屋だからね? 大丈夫? で、週に何回来てんの」

――……一回。
あえて週に何回と聞いてみて、月に何回と訂正するかも、と思った高橋は、そのシンプルな回答にうちのめされた。
(そんなに来てんのか!)

……ラブラブだ。畜生。

康三郎は、甥の四郎に輪をかけて無口だ。そして、嘘はつかない。いや、嘘をつかないからといって、これは、たちが悪い……とても悪い。
「週イチ。まさか、昼休み長めに取ってない?」
――すまん。
「ちょっとさあ。落ちた分の売上、康さんとツカサに補填してもらうよ? 今夜そっちへ顔を出すからさあ、康さん、岐阜に帰らずにそこにいて。きちんと話そう。そもそも閉店の危機を作り出すために、康さんにツカサ紹介したわけじゃない」

まくしたてて高橋は思った。うすうす、こんなことになるだろうと思っていた……こんなことになるだろうと。
それでも、それでも康さんのちょっとおかしな執着を、四郎からひっぱがそうとして、「ツカサが康さんのことを好きだ」と、告げたのだ。
自分の命以外は何でも注ぎ込もうと思った……親友のためには。

「……康さん、ツカサにかわって」
高橋は、ひどく低いこえで告げた。
――すいませんかわりました。
「今夜そっちへ顔を出すから。夕方通常どおり、きちんと開けて。で、寿美ちゃんが上がったあと、ランチ営業早めに閉めてたんだな?」
――ごめんなさい、そうです。

「じゃなきゃ、あの食材仕入れ状況はないよな。しかも夜の部でカウンターにいなくて、ときたま奥から出てくる、って常連さんから伺ってる。ツカサ、恋はしていい。仕事できてりゃ僕はいいと思う。しかも間取り持ったの僕だからさ。うまくいっててほしいと思ってる。
けどな、けどな、僕達の店が、今のお前のずるずるっぷりで、飛ぶぞ。関係者全員巻き込んで、店潰すんだぞ。銀座のマスターまで巻き込んでだぞ。本気か?」
――すいません。ごめんなさい。

ああー、と高橋は天井を見あげた。すでにツカサは涙声だ。

夏にさしかかるころ、康さんを自分の店に連れていった……
ツカサは、ときどき、目を伏せていた……
無口な康さんから会話をひきだして、はにかんだ笑顔をみせていた。
「あのひとのこと、好きか」と、高橋は店が閉まったあと、ツカサに聞いた……
黙って、ツカサは、うつむいた……

「そっちへ行ってから話そう。あんまり泣くな。夜の部、いい顔でしゃきっとして出なよ」
高橋は電話を切った。こちらを見ている四郎と、目が合った。

四郎がたずねた。「どんなことになっとったの。京都の店やろ」
高橋は、うなずいたまま黙った。

「おじさんおったの」
「うん」
「なんか、迷惑かけとったんやろ」

高橋は首を振った。「いいんだ。僕が、わかっていながらしたことだ。責任は僕にある」
「うそやん、迷惑かけたの、おじさんやろ」

高橋は四郎の目を見た。

「僕が経営者だ。責任は僕にある」


次の段:激しい雨で前も見えない。--秋の月、風の夜(14)へ
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高橋照美
「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!