協力しないとご供養のリストから外すぞ。と脅してみたーー秋の月、風の夜(53)
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「確かにハードなコンテンツなんて、ご先祖さまたちをいたずらに元気づけるだけだな。この人たち、のどを切ったり首をへし折ったりだからな。血を飲んだり、脇差で胸腹を開いたり、とにかく凶悪だもん。フシギなんだけどさあ、こういうご先祖さまのDNAをひきついで、よく四郎みたいな品行方正な子孫ができるよね。人類の奇跡だよ」
さっきのつづきで、高橋は四郎の胸腹あたりに、そんなふうに嫌がらせよろしく、話しかける。そして、
「ちょっとイジメすぎ?四郎自身がいやだったら、言えよ?」
ちらっと、四郎の顔を見た。
「そこまで言われたことないもんで、ご先祖さまんら、結構しゅんとしとんさる……」四郎は、存外ほっとしたような表情で、答えた。
「俺、どうしても子孫やもんで。ご先祖さまんらより偉くないもんで、ぎゅうぎゅう押されとったとこがあってさ」
「いやまてまて。そもそも、錯乱してるし死んでるのに、お前に大きな顔しすぎなんだよな、ご先祖さまたちって。……前にも言ったけど、室町時代や江戸時代のおひつより、保温機能つきふっくら玄米炊き機能つきの、今年度製の炊飯ジャーのほうがスペック高いんだからさ。人類は進化してる。ご先祖さまが偉くて自分は偉くないって位置づけは、よそうよな。
それに尊敬ってのは、人格のすぐれたやつが受け取るものだぜ。人格優れてるどころか、品性の下劣さで子孫困らせてるわけじゃん。進化の最先端にいるご当主の言うこと聞けないご先祖さまの欲念の汚れたトコなんて、勘当だよ勘当」
我ながら変な表現だなあ、と思いながら、高橋は続ける。日本酒が回りすぎ、ロジックが過激だ。
「か、勘当……!?」四郎がおびえた声を出す。
「そうだよー」高橋は再び、四郎の胸腹あたりに向かって釘をさした。「次のご当主の中にいさせて頂くんだから、あんたらが居候なんだぞ。わかってんのか? 穀潰し集団。
スペック素朴すぎるくせに、さきに生まれたってだけで、何百年にもわたって子孫をいじめるのはやめろ。四郎が子孫を作れなかったら、警察の厄介になっちゃったなら、直系には供養してもらえなくなるんだぞ。
言っとくが、あした四郎が奈々ちゃんとキスするとき、もしもおとなしくしてなかったら、正徳寺の過去帳あたって、ご供養のリストからはずすからな? いいな?」
びっくりするほどの静寂が、あたりをつつんだ。
「ご供養、してほしいみたいや……」
「知ってるよ、この人たち相当な構ってちゃんだもん」高橋はしれっと言ってのけて、動画をひとつ再生しはじめた。
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