親が好きか。なら離れなさい!【物語・先の一打(せんのひとうち)】41
熟睡している、というわけではなく、頭の芯は起きていた。ただ、ただ、宮垣耕造が肩甲骨の間を、腰椎四番を、頸椎三番を、、、と順番にさわっていく様子は、緻密にわかった。
「新しいめあてができたんだな」宮垣の声がきげんよくひびいた。「それがいい、それがいい。四郎は潰されちゃあもったいない、すぐれた人間だ。自分を認めてくれて、自分を伸ばしてくれて、有用さをすこやかに育ててくれる環境に、自分を移してやりなさい」
「家が……」
自分の声は、ねごとのようにもったりとしていた。
「離れられん……」
「心配なのか」
「はい……」
「親が好きか」
「はい……」
「殴られても、蹴られても、くさされても、ごみ箱みたいに扱われても、離れたくないか」
「……」
「異種格闘技戦で日本一になった教え子がいるんだが、そいつは片親で、六畳で兄弟四人とぎゅうづめで暮らしていて、学校が荒れ果ててホームレスが校内敷地にブルーシートを張っちまうような高校に行ってた……日本一になると決めた時、トラブルになるところへは行かない、巻き込まれそうな友達に会わない、祭りにはいかない、夜七時をすぎたら家を出ない、と目標シートに書いて、守ったよ」
四郎は黙って聞いていた。ただ、ただ、宮垣の施術が心地よくて、なにかがとろけていくような気がした……
「親が好きなら、トラブルに巻き込まないでやりなさい……もう、四郎を叱らせないように、離れてやりなさい」
自分では眠っていると思っていた。枕のタオルがぐっしょりぬれるぐらい、涙がどうどうとあふれて体の外に出ていった。
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「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!