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そしてきゅんきゅんな秋のデートに突入。ーー秋の月、風の夜(55)

#10 秋のデート

カットソーにひざ丈のフレアスカート、オトナっぽくミュール。昨日より、めいっぱいおしゃれをしてみた。唇に、うすいピンクになるリップまで塗ってみた。

安春は朝早く出かけた。ハルもヨシも部活で留守。
つまり、誰にも冷やかされたりしない。奈々瀬は何度も、全身鏡の前に立った。

来た……シルバーのアウディ!
どきどきどきどき……と、のどもとから動悸がつきあがってくる感じ。

チャイムが鳴る前に玄関を出て、奈々瀬は挨拶した。「おはようございます」
「おはよう」小さな声で言って、高橋はさっさと家から離れる。例によって、母親を起こさないように。
「かわいく決めたなー」高橋がにこにこしてささやく。奈々瀬はかっと赤くなった。
「四郎は?」
「車で待ってるよ」
後部席のドアをあけて、奈々瀬を送り込む。そして、高橋は運転席に回った。

「おはよう」
四郎がちらっと奈々瀬を見る。
「おはよう」
高橋はTシャツに綿パンツといういでたちなのだが、四郎が……背広だ。
「服、どうしたの」
「いや俺、仕事のまわしばっかしよって、ドライブどういう服着てくか、ようわからしとおって……ごめんえか」
まわしとは岐阜弁で準備のことだ。

「奈々瀬……」四郎が、のどがカラカラになるような声で、話しかけた。
「なあに」

「ええと、みずいろ、よう似合う……かわいすぎて見れん」
かろうじて言って、四郎は目をそらした。服をほめて、しかもかわいすぎるとまで言えたのは、画期的だ。
実は高橋と六回リピート練習した。

「……うれしい」
奈々瀬は答えて、そして自分に愕然とした。高橋にどきどきして、四郎におちつき払っている自分がいる。
どうしよう。これはどうしたらいいのだろう。まさか……四郎より高橋の方を好き……とか!?


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マガジン:小説「秋の月、風の夜」
もくろみ・目次・登場人物紹介



「最大値の2割」ぐらいで構わないから、ご機嫌でいたい。いろいろあって、いろいろ重なって、とてもご機嫌でいられない時の「逃げ場」であってほしい。そういう書き物を書けたら幸せです。ありがとう!