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民法 法律行為論①

本稿は、京都大学名誉教授の佐久間毅氏の著書を主に参照しつつ、他にも判例百撰の事例及び解説等を参照しています。

1 はじめに
 法律行為とは何かを知るには、法律行為が変動させる権利義務の理解が不可欠である。したがって、まず権利義務とは何か、権利義務の変動とは何かについて考察し、本稿法律行為論①では法律行為概念の意義と内容について分析していきたい。

2 権利義務とは
 民法典は、極端に言えば人々の生活を全て権利義務という言葉に置き換えて、互いの利益調整をするときのルールを言語化していると言える。例えば、友達が使わなくなったPCをあげるよと言った時でさえ、後々友達がPCを渡さなかった場面では、友達に引渡義務という義務をラベリングすることになる。このように義務が発生することを「権利義務の変動」と捉えることができる。権利義務の変動は他にも権利義務の発生(変更)、発生障害、消滅といった場面にも妥当する。そして、権利義務の変動は、友達がPCをあげるよと言ったという生活事実のような、何か原因によって生じる。このような原因を「権利義務の変動原因」という。
 権利義務の変動原因には、民法典にあるもので、契約、契約の解除、遺贈、相続、不法行為、物の滅失など様々なものを想定できる。そして、これら権利義務の変動原因は、その原因ごとに複数の要素を含んでいる。例えば、契約といえば、物を渡すという意思や、代金を支払うといった意思の表明、さらには契約書の存在など、契約の種類毎で異なる複数の要素で特定の契約というものを構成することになり、これらの要素が充足されることでその契約というものが存在することとなるのだ。
 そして、法律行為とは、権利義務の変動原因のうち、特に意思の表明(意思表示)を要素のひとつに持つものを表す概念で、上の例で言えば、契約、契約の解除、遺贈などがそうである。したがって、法律行為たる権利義務の変動原因は、他に意思表示以外の要素も含み得る。

3 法律行為とは
ここまで、権利義務の変動といった人々の間に流れる目に見えない抽象概念にのみ着目した議論を行なっていたが、さらに目に見えない流れから人々にも目を向けて、自己や相手方までも視界に捉えると、これを「法律関係の変動」と表現することができる。法律関係の変動は、法律要件が満たされて法律効果が発生することで生じる。そして、法律要件もまた複数の要素によって構成されており、この要素と一致する具体的な事実を要件事実と表現する。すなわち、「権利義務の変動」といった目に見えない流れのような抽象概念たる権利義務だけを問題にする場合は「権利義務の変動原因」という表現を用いて、その中でも意思表示を要素に含むものを「法律行為」と表す。一方で、権利義務からその影響を受ける当事者にまで視野を拓く場合は、「法律関係の変動」という表現を用いて、「要件事実」が「法律要件」の要素としてそれぞれ充足し、法律効果を生じて権利義務の変動を通じて、当事者を巻き込んだ「法律関係の変動」という現象を引き起こすと整理できる。

4 「法律行為」概念の意義
 法律行為は、当事者の意思表示に基づいて権利変動が認められる点に特徴がある。つまり、人々が意思に基づいて社会生活を構築するという私的自治の原則を、私法によって実現するという手段であるということができる
このような法律行為は、法律行為を構成する意思表示の個数や種類によって、契約、単独行為、合同行為の3つに分類される。
 契約とは、各々が自己の利潤を追求するゆえ目的が対立する2つ又は複数の意思表示が合致したときに成立する法律行為である。当事者がそれぞれ自己目的のために意思表示しそれが結実するといった形をとるため、私的自治の原則からすれば衝突しない限り当事者が自由に締結したり内容決定すれば良いことになる。しかし、実際上は、当事者の力関係や弱者保護の観点から民法典などの私法による調整が図られている。
 単独行為は、契約と異なり1つの意思表示によって成立する法律行為であるが、相手方の受領を必要とするかどうかでさらに分類でき、必要とする単独行為として契約解除、必要としないものとして遺言が代表的である。したがって、遺言の場合、受遺者は一方的に遺言者の法律行為の目的実現を押し付けられることとなり私的自治の原則に反するため、あくまで受遺者は相続人として指名されるにとどまり、権利義務の変動が確定的に生ずるのではなく放棄も可能である。すなわち、単独行為は、契約自由の原則のような単独行為自由の原則をもちあわせない。
 合同行為は、複数の意思表示が同一の目的のためにされることにより成立する法律行為である。特筆すべきは、複数の意思表示のうちひとつが不成立であっても全体には影響を及ぼさない。なぜなら、一つの不成立を理由に他の合同行為をも不成立とするのは不経済と考えられるからである。

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