【勝因】『特異なビルドアップを支える変幻自在な男』~第6節ブライトンVSレスター~

試合結果

2022-23 プレミアリーグ第6節
9/4 22:00.K.O @アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
ブライトン(5-2)レスター
1分 ケレチ・イヘアナチョ
9分 ルーク・トーマス(OG)
15分 モイセス・カイセド
33分 パトソン・ダカ

スタメン

この試合を選んだ理由

第5節を終えて、ブライトンは3勝1分1敗で4位に位置していました。開幕戦でマンチェスター・ユナイテッドを2-1で破り、好調を維持しています。三笘薫選手が加入したこともあり、試合結果を気にしていましたが、何故こんなに強いのか。気になったので大勝したレスター戦を見てみました。

特異なビルドアップを支える変幻自在な男

「何だこれは!」

キックオフ直後、時計の針が1分を回る前に、ブライトンが失点を許したことへの驚きではありません。

ブライトンの選手の立ち位置が不思議なことに驚きました。

上記のスタメン画像の通りに基本システムは[3-4-3]です。しかし、試合スタートから間もなくして1点を追い掛ける立場になったブライトンは[3-1-5-1]に変形します。

3バックが横に広がってパスを回し、マクアリスターが中盤の底にポジションを取る。トロサールが左サイドの高い位置を取り、カイセド、ムウェプも中央から前に行きます。

いびつだと感じたのは、右サイドです。

WBのマーチが内側に入って、カイセドとムウェプと共に1トップを務めるウェルベックの背後、シャドーのような立ち位置を取ります。そして、シャドーだったグロースが右WBになるんです。

[3-4-3]は攻撃時にWBはそのままサイドの高い位置に張り出し、シャドーは内側に入ってハーフスペース(ピッチを立てに5分割し、外側から2番目のレーン)を取ることが定石です。ボールがゴール前にあり、相手を崩すために選手間で入れ替わることはあるかもしれません。しかし、局面を打開するために即興でやるものが多いと思います。

でも、ブライトンはビルドアップのスタート時から右サイドでマーチとグロースが入れ替わるんです。もちろん守備時はマーチが上下動してサイドをカバーし、グロースが内側を埋めますが…。

特異とも言える可変式のビルドアップは実に効果的でした。

やはり肝になるのはシャドーから右WBに移るグロースです。31歳のドイツ人MFは、足元の技術に優れていて、精度の高いキックを持っています。そのため、比較的プレッシャーを受けにくいサイドでプレーすると、正確なクロスをどんどんゴール前に送っています。10分の同点ゴールもグロースが右サイドからファーに蹴り込んだクロスがきっかけになって生まれました。

ただ、キックがうまい選手だけではありません。正確無比と言ってもデイビッド・ベッカムのように右足1本で試合を決定づけられる選手ではないです。クロスを最大限に生かすためのポジションチェンジではなく、彼の優れたサッカーIQを引き出し、チームや試合への大きく影響させるためです。

サッカーIQの良さはポジショニングです。

レスターは守備時に[4-1-2-3]から[4-4-2]に変化してブロックを組みます。[4-4-2]のブロックは4人で68mのピッチ幅を埋めるラインを2つ作れるので、スペースを均等に埋められる良さがあります。

しかし、グロースはブロックの穴になるスペースを察知する能力に優れています。相手の急所を見分けられる選手なんです。

例を1つ。右から内側に入ったマーチがレスターの左SHとボランチの間に立ち、そこから縦に抜けていく動きをしました。すると、その状況を見たグロースが下がっていき、レスターの左SHの脇で自陣にいたCBからのパスを敵陣で受けたんです。レスターの左SHはマークすれば解決すれば良いのかもしれませんが、彼は内側への縦パスを警戒して、持ち場を離れて前に行くことができませんでした。結果的にグロースはフリーの状態でパスを受けて、チームとして前進が完了。グロースはその場でターンをして、パスや運ぶドリブルでゴールに向かってプレーすることができました。ビルドアップは相手ゴールに向かってボールを前に運ぶことを目的としているので、大成功と言えます。

このように前半はグロースが右WBのポジションに移動して、捕まえられないポジションでボールを受けることでビルドアップがスムーズになり、ボールを掌握していきます。そして、15分にはカイセドのゴールが決まり、逆転して試合を折り返しました。

後半は追いかけるレスターが形を変えました。[5-3-2]に変更することで、人でスペースを埋めてズレを無くす守備の方法に切り替えたんです。

しかし、ブライトンが優勢のまま試合は進んでいきます。

前半はグロースが右サイドから下りてボールをレシーブしていましたが、後半はレスターの守備のスタート地点が下がったことにより、ブライトンは敵陣まで簡単にボールを運んでいきます。なので、グロースはゴール前、バイタルエリアの攻略する作業に注力しました。

マーチとグロースは内と外のポジションチェンジを止めました。グロースは内側に入ってIH、シャドーのような動きをします。CBとWBの間から背後に抜け出したり、アンカーの脇で縦パスを受けたり、より高い位置でのプレーが増えました。得点には直接的に関与しませんでしたが、バイタルエリアで正確なボールコントロールとパスでどんどんチャンスを演出していきます。64分にトロサールへ、68分にはマーチへの決定的なラストパスをPA付近から繰り出していました。

試合の状況によって、WB、IH、SH、シャドー、はたまた2トップの一角にもなる変幻自在なパスカル・グロースがブライトンの特異なビルドアップを支える縁の下の力持ちとしてバツグンな存在感を発揮しています。※三笘薫は出場なし


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難波拓未|サッカーライター
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